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みどりに開かれた、エシカルライフのための発信基地

折尾大輔、木村和也

みどりに開かれた、エシカルライフのための発信基地

グラングリーン大阪最大の特徴となる都市公園。敷地内の自然に溶け込むようにおおらかな曲線を描く大屋根を有する複合施設が建設される予定だが、その中央に位置するのが情報発信棟(仮称)だ。公園に向かって開かれた半屋内型のスペースは、まちの総合的なインフォメーション施設となる。この運営を担うのが凸版印刷の情報コミュニケーション事業本部だ。企画に携わっている折尾大輔さんと木村和也さんが構想を語ってくれた。

1900年創業の凸版印刷は印刷テクノロジーを基に様々な事業を手掛け、日本の経済とともに成長を遂げてきた。そして現在、その事業は印刷技術にとどまらず、企業とのパイプを生かした多彩なビジネスを展開している。二人の所属する情報コミュニケーション事業本部では、空間プロデュースやまちづくりなども手がけている。 情報発信棟(仮称)の運営を手がけることになった経緯について、折尾さんはこう話す。「弊社はこれまで情報加工産業としてさまざまなBtoBでのコミュニケーションを担ってきました。現在では社会的な価値を創造することを目指し、サステナブルな経営に取り組んでいます。このような背景の中で、国内最大級のまちづくりプロジェクトとして“みどりとイノベーションの融合拠点”を掲げるグラングリーン大阪のコンセプトに深く共鳴し、協業が実現しました」

情報発信棟(仮称)は、都市公園のシンボルとして誕生予定の『大屋根施設』(画像右下)の中央に位置する。SANAAの建築を最大限に生かした、オープンかつシームレスな空間だ。

凸版印刷の自主運営施設としては、2018年に開業した東京・丸の内の「NIPPON GALLERY TABIDO MARUNOUCHI」が記憶に新しい。「観光立国・地方創生をテーマにしたショースペースで、日本全国の多様な魅力を、弊社が培ってきた先端表現技術やデジタル技術を用いて紹介する体験施設です。『新しい観光コンテンツ』を目指したこの事業がきっかけとなり、情報発信棟(仮称)の仕事につながりました」と木村さんは話す。

NIPPON GALLERY TABIDO MARUNOUCHI(東京・丸の内)

情報発信棟(仮称)は、インフォメーション、トッパンスペース、多目的スペースと3つのゾーンに分類される。情報案内所の役割を有するインフォメーションについて折尾さんは説明する。「われわれが考えるインフォメーションは、いわゆるツーリスト向けの観光インフォメーションカウンターではありません。目指すのは訪れる人のニーズに合わせてグラングリーン大阪の魅力を発信できる多面的なコミュニケーションです。洗練された都会的な雰囲気の中、ご近所さんのような親しみのある案内ができるよう、スタッフも豊かなコミュニケーションが取れる人材を迎えます。旅行者はもちろん、地元の人々やここで働く人たちに、公園での多様な過ごし方が提案できるといいですね」

建築を専攻していた大学院時代、留学プログラムAUSMIPに参加し、EUで都市計画を学んだ折尾大輔さん。

より具体的に公園を楽しむヒントを集めた、公園に関する情報発信基地となるのがトッパンスペースだ。「公園の情報だけでなく、先端テクノロジーを活用したプロダクトのレンタルなどのサービスも検討しています。たとえばスローなモビリティやアウトドアグッズの貸し出しを行うことで、公園の活用範囲は広がるでしょう。楽しい体験がある、居心地が良い、何度も来たくなる公園に導くような場です」

多目的スペースでは持続可能な未来に向けて、日常生活や週末のレジャーに取り入れられるエシカルな提案を考案中。

さらに多目的スペースでは、公園利用者と企業が出合う、楽しい体験の場づくりを目指す。「企業が集う共創の場となることもあれば、エンタメを通して日々の暮らしへの気づきを来訪者に与える場となることもあります。世界中から集めた最先端のプロダクトを展示・販売したり、気軽に参加できるワークショップやセミナーなどのイベントを催したり、アーティストや企業との実証実験を行うなどさまざまなアイディアを構想中です。地域にお住まいの方々や企業の方々とも協働しながら新しいコミュニティが生まれるといいですね」

木村和也さんは凸版印刷入社前、洋楽のプロモーター、映画配給会社に勤務。情報発信棟(仮称)について、「世界に誇れる都市公園の中で、多様な場を提供したい」と話す。

これら3つのスペースはシームレスにつながりながら、賑わいを生み出すことを目指しているが、全体に通底するキーワードが“エシカルテインメント”。エシカル(倫理的な)とエンターテインメントを組合せた造語だと木村さんは言う。「私たちはエシカルという概念が複雑な社会課題を解決する仕組みを考える上で非常に大事だと考えています。この概念をエンターテインメントの力を借りて来訪者に直感的に体験してほしいのです。公園で過ごす時間をより楽しく、さらにサステナブルに日々の生活を豊かにするような体験プログラムを展開していきたいと考えています」

2025年には大阪万博も控え、いまや企業にとっても生活者にとってもエシカルな取り組みは共通のテーマだ。人と人、あるいは企業と人をつなげ、地球の未来を考える情報発信基地として、情報発信棟(仮称)の役割に期待が高まる。

折尾 大輔(おりお・だいすけ)
2006年凸版印刷入社。事業やサービスのブランディングを担当し、グッドデザイン賞をはじめ各種アワードを受賞。官公庁の海外販路開拓事業でプロデュース業務を担当し、19年より現職にて空間のプロデュースに従事。

木村 和也(きむら・かずや)
2010年凸版印刷入社。おもに企業や官公庁、自治体の大型イベントや展示会のプロデュース、企画制作を担当。賑わいづくりの経験を活かし、現在は“場づくり”の観点で広くまちづくりや新規複合施設における戦略策定、体験設計やコミュニティ施策に関わる。

写真・藤本賢一  文・久保寺潤子

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