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みどりとイノベーションの融合拠点「グラングリーン大阪」、プロジェクト名称とロゴマークに込められた想いとは。

テーマ:プロジェクト名称・ロゴマーク

みどりとイノベーションの融合拠点「グラングリーン大阪」、プロジェクト名称とロゴマークに込められた想いとは。

2024年夏に先行まちびらきを迎える「うめきた2期地区開発プロジェクト」。そのプロジェクト名称が「グラングリーン大阪(GRAND GREEN OSAKA)」に決定した。プロジェクト名称とともに、まちを象徴するロゴマークも発表され、新しいまちづくりに向けた取り組みがますます本格化。都市公園を中心に据えた「みどり」と「イノベーション」の融合拠点のまちに付けられた名称と、その象徴となるロゴマークの成り立ちについて、うめきた2期開発事業者とロゴデザインを担当したデザイナーに話を聞いた。

左から、谷口義明さん/オリックス不動産株式会社(投資開発事業本部 大阪営業部 うめきた開発推進室 プロジェクトリーダー)、坂口博紀さん/株式会社HARBOR (代表取締役・クリエイティブディレクター)、木村祐太さん/株式会社竹中工務店(大阪駅北地区事業本部 チーフエキスパート)

「新しいまちの名前を生み出す作業は、とても大変でした。ネーミング案は、最終的にのべ200案は出たのではないでしょうか」とオリックス不動産の谷口義明さんはプロジェクト名称が決定されるまでの苦労を開口一番に打ち明けた。
「うめきた2期の開発事業者9社の中にはグランフロント大阪などの先行区域開発の頃から携わっている事業者もいらっしゃるので、開発にかける想いは同じでも、それぞれ考える視点は違います。それらをひとつにまとめていくところが難しかった」と竹中工務店の木村祐太さんも当時のことを振り返り言葉を紡ぐ。
「プロジェクト名称を考えるにあたって、私たちは改めてうめきた2期の本質とは何かということを探るところから始めました。そしてその議論を踏まえ3つの制作方針を策定しました。まず、うめきた2期のイメージや特徴・コンセプトを表すものであること。次に年齢、国籍、人種を問わず多様な人々に親しまれる役割を担うこと。そして20年、50年と時間が経過するほど、うめきた2期のブランド価値がまちの資産として構築されていく役割を果たすこと。その3つの条件を満たしたネーミングをということで、それぞれの事業者がアイデアを出し合いました」と谷口さんはプロジェクト名称決定までのプロセスを説明する。

「敷地の半分を占める約4.5ヘクタールの都市公園をまちの中心に据えることは、短期的に見れば経済効率が良くないかもしれませんが、長期的な視点では、来街者のQOLを向上させ、周辺のまちの価値を高めるなど、より大きな価値を生み出すことができると考えています。『グラングリーン大阪』はそれを証明するような存在になっていくと期待しています」とオリックス不動産の谷口さん。

だが名称が決まるまでの道のりは険しく、制作方針を決めてから商標出願をするまで、約半年の期間を要したという。
「一度はアイデアを30案程度まで絞り込むことができたのですが、出そろったネーミングを見直していく過程で少し方向性がずれてきているのではないか?など、さまざまな意見が挙がり、それらを解消するためにまた新たに100案近くアイデアを提案するなど、本当に紆余曲折がありました。最終的にネーミング案を絞り込む上で要点となったのは、先行開発区域であるグランフロント大阪を含め、うめきたエリア全体の一体感を感じさせるものであることでした。その後話し合いを重ねながら10案、それから4案と段階的に絞り込み、最終候補の2案の中から決定に至りました」

うめきた2期開発事業者のさまざまな想いが形となったプロジェクト名称「グラングリーン大阪」は、隣接するグランフロント大阪とも親和性があり、緑豊かな都市公園を連想させる名前だ。
「グランフロント大阪は開業して今年で10年目を迎えますが、その名称は一般の方にも浸透し、慣れ親しんでいただいていると思います。ですがグランフロント大阪が先行開発区域であり、うめきた2期とつながりのあるプロジェクトだということはまだ知られていないように思います。プロジェクト名称を検討する上では、グランフロント大阪とグラングリーン大阪でひとつのまちが完成することを知っていただけるように意識しました」と木村さん。

「私が子どもの頃は、ドーナツ化現象の真っただ中で、大阪の都心は働くための街でした。大阪駅の北側にも何もなくて行くこともなかったのですが、今は開発が進み、住む人や観光客も増え、街の魅力が高まってきていると感じます」と大阪の街の変遷を知る船場出身の木村さん。

新たなまちの名である「グラングリーン大阪」のイメージを視覚的に体現するのがロゴマークの使命だ。コンペティションが実施され、最終的に決定されたロゴマークは、イエローとグリーンの2色で構成された有機的なフォルムのデザイン。よく見ると黄色の部分は流れるような筆記体の「g」の文字が2つ重なっている。デザインを手掛けたのはブランディングデザイン会社 HARBORの坂口博紀さんだ。このロゴマークをつくり出すことに非常に苦労したという。「プロジェクト名称がグラングリーン大阪だと聞いて、これは難しいなと(笑)。というのは、グリーンと聞いて誰しも連想するのは、緑色や木や葉など自然の造形ですよね。ロゴマークというものは、そのブランドにとって馴染むものでないといけませんが発想がありきたりすぎてもいけません。うめきた2期のロゴマークは、これから何十年も掲げられていくものなので、オーソドックスなイメージでありながらも、独自性やこのまちが描く未来をどのように形にしていけばいいのかというところで、かなり悩みました」

「うめきた2期の都市公園が、訪れる人たちがのびのびとできる場所であってほしいし、新しいチャレンジからイノベーションが生まれる場でもあってほしい。そしてロゴマークがここを訪れる人たちを輝かせる存在になってほしいと願っています」とHARBORの坂口さん。

坂口さんが通常、ブランドのロゴマークをつくる時は、コンセプトに込められた想いや、目指す未来像などを経営者と長い時間をかけて対話したものを咀嚼しロゴの形につくり上げていくスタイルだ。
「ただ今回はコンペティションだったので、限られた時間の中で、うめきた2期の未来像を思い描きながら提案をしました。真っ先に思い浮かんだのは、先行開発区域のグランフロント大阪からの流れを汲む形であること。グランフロント大阪のロゴマークは6本の線でできていますが、この6本線を継承していけないだろうかと直線にしてみたり回転させてみたり台形にしたりと何十案と検証を重ねていきました」
もうひとつポイントにしたのは、うめきた2期を紐解く中で大きな位置を占めるランドスケープだったという。「とくにうめきた2期のプロジェクトコンセプトの文中に登場する“緑の息吹”というキーワードにとても共感し、息吹というものをどう形に表現するかを悩みました。黄色というカラーリングを採用したのも、黄色=太陽をイメージし、太陽があることで緑はいきいきとし、芽や枝葉をぐんぐん伸ばしていく。うめきた2期が、明るく未来を照らす場であり、多様な息吹が生まれるような印象を与えたかったのです」

4つのタワーと施設を包む水と緑の自然環境をモチーフにした6本の線からなるグランフロント大阪のロゴマークから着想。球体や回転などさまざまな形を検証した。
“息吹”と“太陽”にインスパイアされ、黄色を採用し有機的なフォルムの最終形に近くなってきたロゴ案。

そうした太陽と息吹を表現したロゴマークを、事業者側はどう受け止めたのだろうか。コンペティションの時を振り返り木村さんは、ロゴマークの印象をこう話す。
「最初に見た時は、緑色よりも黄色を全面に打ち出していくロゴマークに驚きました。プロジェクト名称でも“グリーン”を使っているので、知らず知らずのうちに、緑色を使うべきだと思い込んでいましたが、緑がいきいきと育つには黄色=太陽が必要、その着眼点にハッとしました。僕らも気づかされたところが大きかったですね」。
「グランフロント大阪のロゴマークと並べた時のバランスも決め手のひとつでした。グランフロント大阪の“直線的な”デザインに対し、“方向性を持たない”という全体のアーバンデザインコンセプトにも合致しているなど評価が高かった」と採用となった理由を説明する谷口さん。
「梅田スカイビルが竣工したのが1993年、そして2013年開業のグランフロント大阪に続き、うめきた2期が2024年に先行まちびらきすることで約30年の時を経てうめきたエリアの街がようやくひとつにつながります。通常は街をつなぐのは道路ですが、このエリアをつなげていくのは大きな都市公園です。この公園が周りに住む人や働く人、買い物に来る人、観光に来る人をうまく混ぜてくれる存在になることを期待しています」と木村さんが話すように、「グラングリーン大阪」の“グラン”は大いなるという意味を持つ。大いなる緑の公園で多様な人が出会い交わり、自然の息吹や人々の活気、イノベーションの息吹を感じることができる。「グラングリーン大阪」と命名されたことで、公園を抱く新しい都市のイメージをより鮮明に伝え、その思想を象徴するデザインのロゴマークは、訪れる人たちに長く愛されていくに違いない。

写真:内藤貞保 文:脇本暁子 

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