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商業ゾーンの働く環境を整備し、街への誇りにつなげる

テーマ:商業施設バックオフィス_ES

商業ゾーンの働く環境を整備し、街への誇りにつなげる

「グラングリーン大阪」の商業ゾーン において、人生を豊かにする“ENRICH”をコンセプトとした「グラングリーン大阪 ショップ&レストラン(以下、S&R)」が2024年9月6日より順次オープンする。都 市公園、南街区、北街区の3ブロックにわたって、それぞれ公園内施設、南館、北館として多彩な商業ゾーンが誕生するが、従業員にとっても日常の質を豊かにするような働き方への取り組み が進められている。働く環境を整備する担当事業者に話を聞いた。

左から 金子篤志さん/阪急阪神ビルマネジメント株式会社(うめきた2期開業準備室)、近藤麻由さん/阪急阪神不動産株式会社(開発事業本部都市マネジメント事業部 うめきたPJM・商業開発グループ )、 豊田圭祐さん/阪急阪神ビルマネジメント株式会社(うめきた2期開業準備室)

店舗や企業などの組織に勤める従業員が、自分の仕事や職場にどの程度満足しているかを測る指標「Employee Satisfaction(従業員満足度:以下、ES)」。昨今、商業施設の場でもES向上のためにさまざまな施策が行われているが、まだより良くできる部分があると話すのは、「S&R」の企画・開発を担当する阪急阪神不動産の近藤麻由さんだ。

「商業施設デベロッパーとしての命題は集客や売上向上ですが、効果が分かりやすく、取り組みやすいのはお客様向けのサービスです。一方で、従業員のポテンシャルが最大限発揮できる環境を整える従業員向けの施策も非常に重要です。これまではESのサービスに取り組んでいても、優遇を受ける人が限定的だったり、従業員が行う申請などの承認プロセスが、紙や捺印を必要とするアナログで作業量の多い運営体制だったりと、従業員の業務のデジタル化への試みが不十分だったことが挙げられます」

「従業員 がS&Rで働くことに対して価値を見出し、職場や施設に対して愛着や誇りを持っていただきたい。その気持ちが家族や友人、周囲の方々にも浸透してエンゲージメントの高い街になればいいなと思っています」と近藤さん。

「S&R」の運営管理を行う阪急阪神ビルマネジメントの豊田圭祐さんは、商業施設でES対策がなかなか進まない理由をこう分析する。
「テナントの現場の声をお聞きすると、とくに接客業は人手不足が深刻です。従業員の労働時間が長くなり、休憩する環境も整わない。その結果、ESもあまり充足されず、より人が集まりにくいといった負のスパイラルに陥っているケースも散見されます。ESの向上を目指す対策を充実させようという意識の高まりはあるものの、たとえば休憩室の例をとってもスペースが限られており、リニューアル時に手を加えても、電源や席数を少し増やす程度にとどまっているのが現状です」

「S&Rのオープンはゴールではなく、スタートラインです。オープン後にも課題が見えてくると思いますので、従業員 と向き合い、課題解決に向けて取り組んでいきたいです」と意気込みを語る豊田さん。

そうした状況のなか、うめきた2期地区開発事業「グラングリーン大阪」の大型プロジェクトは、既存の商業施設にはできなかったことに挑戦する好機であると近藤さんが続ける。

「既存の物件では、業務ツールやハードの変更は時間もコストもかかります。また、急激な変化は、現場の従業員に対して混乱や負担を与えてしまう恐れもあり、なかなか取り組みづらいという側面もありました。ですが、グラングリーン大阪のように新規開発プロジェクトであれば、ハードな面とソフトな面の両軸で1からつくり上げていくことができます。今まで積み上げてきた実績 や反省点を生かしながら、DXやITといった概念や技術を活用した新しいチャレンジ をしていきたいと思っています」

「今後は商業施設で普段の実務から外れたところに対しても、人生観やキャリアとの向き合い方について学ぶ場も提供していければと考えています。S&Rで働く方が長期的にみてキャリアが豊かになるような企画を提案していきたいです」と金子さん。

従業員が健康的に働くために重要なのが、快適で機能性を備えた休憩室だ。南館、北館のそれぞれに従業員休憩室が設置されるが、内装デザインのコンセプトを阪急阪神ビルマネジメントの金子篤志さんが説明する。

「南北共通のコンセプトを『HYGGE(ヒュッゲ)』と定めました。デンマーク語で“居心地がいい空間”や“楽しい時間”を意味します。温かみのある木目やグリーンなどの自然素材を基調としたリラックスできる空間にしています。それと同時に鏡や ゴールドの照明を活用することで、ラグジュアリーな空間の演出も行っています。気分が上がるホテルラウンジのような空間であってほしいという想いから、休憩室を『STAFF LOUNGE』と名付けました。休憩室は疲れた心と身体を休めるのが一番の役割ですが、マイナスからゼロに回復するだけにとどまらず、そこからさらにプラスの状態となれるような 、気分が高揚する内装デザインを心がけました」

ホテルラウンジのようにくつろげる北館のスタッフ休憩室「STAFF LOUNGE」。従業員は北館、南館どちらの休憩室も利用することが可能だ。

北館、南館の休憩室では、居心地良く過ごせるような仕掛けが随所に施され、機能的な什器や周りの視線を遮るパーソナルスペースの確保なども配慮されている。
「その日の気分によって居場所を選択できるように、多種多様な什器を用意しています。従業員数に応じた座席を確保したうえに、足を伸ばしてゆっくり休めるリクライニング式ソファや、みんなとおしゃべりできるオープンなエリア、ゆっくり軽食をとれるカウンターのハイチェア、機能的でくつろげる家具などを用意しています」と金子さん。椅子に関しては実際に座り心地を確認しながら選定したという。

また、従業員 の身体的・心理的な負担を減らし、ウェルビーイングを実現するための仕掛けとして、照明計画にも力を入れている。
「光の色を表す色温度は、健康維持や心理的効果に影響があるといわれています。暖かいオレンジ色の光は浴びることで副交感神経が優位になるという研究データもあります。従業員 によりリラックスしてもらえるように、暖色系の光を採用し 、室内の明るさを調整できる調光機能も持たせ、心身ともにリラックスできる ように工夫しています」と豊田さんが説明する。

さらに、テレワークやオンライン会議を実施する機会が当たり前となってきた昨今、新しい働き方に対するニーズにも対応していくと近藤さんは話す。
「ビジネス用途としては、ひとり用のワークブースをはじめ、オンライン会議などが行える遮音に配慮した個室タイプの会議室を設けています。また、アパレル店などでは、商品写真をSNSなどで発信して販売する機会が増えてきていることから、写真撮影が行えるスタジオを用意しています」

2025年春頃にオープンする南館の休憩室では、テレワークブースや予約制の会議室も設置する。

「ほかにも福利厚生事業を手がけている企業と連携し、南館の休憩室に24時間営業のキャッシュレス 無人コンビニエンスストアを設置します。従業員 になるべく安価で食事できる環境を整える予定で、将来的には商業施設の飲食店とも連携して、飲食物を割安で販売するなど、フードロス削減につながる取り組みもしていきたいと構想しています」と金子さんが意欲を語る。

ソフトとハードの両面で「S&R」に働きやすい快適な環境を整え、従業員のQOLの向上を実現する。グラングリーン大阪ならではの働き方改革はまだ始まったばかりだ。
「グラングリーン大阪のコンセプトである“Osaka MIDORI LIFEの創造”は、お客様だけでなく、そこで働く従業員にも該当します。新しい価値に出会い、自分の価値観をブラッシュアップしていただける、働く場の環境を整備していきます」と近藤さん。

従業員が働きやすい環境をつくることは、やる気を育て、仕事場への愛着心を高める。それはすなわちグラングリーン大阪の街への誇りを持つことにつながるのだ。

写真:東谷幸一 文:脇本暁子 

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