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エリアマネジメントとパークマネジメントの両面から、シームレスに運営していく一体的マネジメント組織「MMO」

テーマ:一般社団法人うめきたMMO(“MIDORI” Management Organization)

エリアマネジメントとパークマネジメントの両面から、シームレスに運営していく一体的マネジメント組織「MMO」

「みどり」が織りなす壮大な都市公園を中心とした新しい街「グラングリーン大阪」。2024年夏頃の先行まちびらきに向けて、同開発区域のパークマネジメントとエリアマネジメントを一体的に行う組織「一般社団法人うめきたMMO* (以下、MMO)」が、今年6月1日に設立された。グラングリーン大阪がパークマネジメントとエリアマネジメントを通じて目指すまちづくりのビジョンについて、MMOの検討を進める担当者に話を伺った。

*MMO=“MIDORI” Management Organization

左前から時計回りに:有本慎太郎さん/三菱地所株式会社(関西支店 グラングリーン大阪室 主事)、深谷伸作さん/株式会社大林組 大阪本店 建築事業部 プロジェクト推進第一部、大亦泰薫さん/阪急阪神不動産株式会社(開発事業本部 うめきた事業部 うめきたグループ 兼 都市マネジメント事業部 課長)、東村壮裕さん/株式会社竹中工務店(大阪駅北地区事業本部 シニアチーフエキスパート)

「グラングリーン大阪では、約4.5ヘクタールの都市公園を中心とする公共空間を公民連携で整備しています。整備するだけでなく完成してからも運営・管理していくために、グラングリーン大阪開発事業者が協働し『MMO』という組織を設立しました」と三菱地所株式会社の有本慎太郎さんが設立した背景を語る。

MMOは、都市公園の運営管理を行うパークマネジメントと、まちづくりを担うエリアマネジメントの両方を同じ組織が担う国内でも稀なケースだが、その理由について阪急阪神不動産株式会社の大亦泰薫さんがこう話す。
「グラングリーン大阪は、都市公園と、公園周囲の民間施設を一体的に開発し、運営します。そのため、2024年夏頃の先行まちびらきや2025年春頃の賃貸棟全面開業、そして賃貸棟全面開業以降と、将来的な街区の変化に対応できるような体制が必要です。また、公園を通じたみどりによる付加価値をグラングリーン大阪の価値向上につなげていくには、この組織形態が最適と考えています。」

「都市公園に訪れる子どもたちが、都心で自然と直接触れ合える体験を通して、SDGsの意識も自然と高まり学んでいく場になっていければ良いと感じています」と三菱地所の有本さん。
「緑が少ない大阪において、ターミナル駅前にみどりの空間ができるのは類を見ません。こうした都心型みどりの空間・利用価値をしっかりと伝えていきたいですね」と阪急阪神不動産の大亦さん。

では、MMOが目指す都市公園を主体にした新しいまちづくりとは、どういったものなのだろうか? グラングリーン大阪は開発事業者9社が関わっていることから、各社の思い描くまちづくりの様相を一致させることは容易ではなかったと有本さんは振り返る。
「本プロジェクトには複数の事業者が関わっていますし、我々デベロッパーやゼネコンが公園の開発段階から関わるというケースはあまり多くはありません。そのため、どういった公園を目指していくのかという共通認識を形成するためにも、事業者と設計会社、そしてランドスケープ・デザイン事務所の『GGN』とともに海外視察に行きました」

その視察のなかでとりわけ参考になったというのが、ニューヨーク市の中心部にある面積約3.9ヘクタールの市立公園「ブライアント・パーク」だったという。
「ブライアント・パークは、グラングリーン大阪と同様に都心の中心地に位置し、周囲には駅やオフィスビル、繁華街があります。園内のステージでは日常的に演劇が上演され、そのほかにもフェンシングやジャグリングを楽しめるなど、無料でさまざまなプログラムやイベントが開催されていました。公園の中心には大きな芝生の空間があり、イベントが行われていない時でも、公園を訪れる人がそれぞれ自分の時間を楽しんでいる光景が印象的でした。また現地のエリアマネジメント団体の方にヒアリングを行い、プログラムのつくり方やマネジメントに関するお話など、さまざまな意見交換も行いました。この視察を経て、開発事業者内に目指すべき公共空間の理想像としての共通認識ができたように思います」

ランドスケープ・デザイン事務所「GGN」のキャサリン・グスタフソン氏(中央右)らデザイナーと開発事業者が一堂に会し、グラングリーン大阪の模型を目の前にしながら新しいまちづくりについて意見を交わした。

さらに株式会社大林組の深谷伸作さんが続ける。「海外視察の実施以降もパブリックスペースとしてのあるべき姿やどういった使われ方をしてほしいか、さらにその使い方を想定した空間をどうつくっていくのかといったことを、関係者の皆様と議論しました。それこそ、GGNの皆さんに何度も来日していただき、デザイナーや事業者など合わせて100人近くの関係者がひとつの部屋に集まってさまざまな観点でディスカッションして、検討や合意形成を進めました」

新しく誕生する都市公園はさまざまな空間があるので訪れるだけでも非常に楽しいと思います。そのうえで、ソフト面でも高質な維持管理や魅力的なコンテンツ提供を行うことで、従来の公園に対する概念が変わったと感じてもらえたら嬉しいですね」と大林組の深谷さん。

そうして形成されたのが、みどりを中心としたパブリック空間を活用することで実現する創造的な都市生活のための3つの活動指針だ。まず1つ目が“トライアルファースト”。最初から完璧を目指さずに、まず試して検証を続ける組織を目指していく。この活動方針について大亦さんは、都市公園の植栽や維持管理を一例に挙げて説明する。
「新しくできる都市公園には、一年中青々とした天然芝の大きな広場もつくり、その空間を魅せながら、多くの人が活用できるようにしたいと思っています。その実現に向けて、実証実験場『うめきた外庭SQUARE』を活用しながら、我々もトライアルファーストを実践してきました。例えば、7種類の天然芝の育成比較を通じてうめきたの土壌・環境に最適な芝を検証する、自動芝刈り機の新技術を導入し検証する等、公園の維持管理の知見も積み上げながら、一定の成果を挙げられたと思っています。今後もトライアルファーストを通じて、新しい公園の維持管理にもつなげていこうと考えています」

次に2つ目は“ダイバーシティ&インクルージョン”だ。「大阪城公園や淀川など周辺の生態系からさまざまな生き物が飛来できるように、植栽も一般的な公園のものではなくて在来種を中心とした大阪の里山らしい環境づくりを目指しています。そのうえで、雨水の再利用など自然の力を使ったグリーンインフラを整備し、環境に配慮した整備に取り組むことで、生物多様性を実現していきます。また防災の面でも災害時にはこの公園が広域避難場所になりますので、官民連携して災害対策にも取り組んでいきます」と株式会社竹中工務店の東村壮裕さんが説明する。

「私どもは2024年から50年間の指定管理を担う予定ですが、多くの方に使っていただき、市民の皆様や企業、行政などのステークホルダーとともに新たなことに挑戦し続ける日本最先端の公園になってほしいと思っています」と竹中工務店の東村さん。

最後に3つ目は“パートナーシップ”だ。「うめきたエリアでは、先行開発区域であるグランフロント大阪のエリアマネジメントを一般社団法人グランフロント大阪TMO(以下、TMO)が行っています。TMOと連携することで、グランフロント大阪で培った知見を活かし、うめきたのまちづくりをさらに拡大、深化させていきたいと思っています。また一方で、都市公園というこれまでグランフロント大阪にはなかった新たな性質の公共空間ができることで、近隣のオフィスワーカーや家族連れ、新駅を活用して関西国際空港からアクセスして来るインバウンドのお客様など、これまでの客層以外の方々も多く訪れると思います。従来の客層も含め、多種多様な人々に楽しんでいただき、ここでしか得られない体験や価値を提供できる都市公園を、さまざまな関係者とのパートナーシップを築きながらしっかりつくっていきたいと考えています」と有本さんは話す。
「都市公園の価値を高めるためにも、公園で行われるイベントやプログラムもいろいろと仕掛けていきたいと考えています。都心の公園ならではの、既存の公園とは違った新しい体験をここで感じてもらえるようトライアルファーストの観点でやっていきたいと思っています」と深谷さんも意欲を滲ませた。

新しいみどりの可能性や多様な使い方ができるグラングリーン大阪の都市公園。そのパブリック空間は、国内のみならず世界からも注目を集める存在になっていくだろう。

写真:内藤貞保 文:脇本暁子

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