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グリーンフィールド型の開発で、大阪が目指すスーパーシティを構築

テーマ:スーパーシティ

グリーンフィールド型の開発で、大阪が目指すスーパーシティを構築

2022年4月、閣議決定により大阪市が茨城県つくば市とともにスーパーシティ型国家戦略特別区域の第1号として指定された。スーパーシティとは、人工知能AIやビッグデータをはじめとする先端的サービスの提供や複数分野間でのデータ連携、そして、大規模な規制改革を実行することで、10年先のより良い生活を先行的に実現する「まるごと未来都市」を目指す取り組みだ。大阪が目指す未来ビジョンとは一体どんなものなのだろうか。

左から森山文子さん、神林祐一さん、竹本忠博さん

大阪が目指す未来型都市スーパーシティについて、2000年代から推進されてきたスマートシティとの違いを交えて、大阪市デジタル統括室・森山文子さんはこのように説明する。
「スマートシティとは、国によると『都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用して、計画、整備、管理、運営という高度なマネジメントを行い全体最適化し、新たな価値を創出する持続可能な都市地域』と定義されています。一方で、スーパーシティは、国が『まるごと未来都市』と提唱するように、2030年までに世界に先駆けて未来の生活を先行実現して、社会のあり方そのものを変えていく構想と言われています。スーパーシティの特徴は3点挙げられます。ひとつ目はさまざまなサービスに共通に使えるデータ連携基盤の整備。このデータ連携基盤を使って複数分野にまたがってデータ連携をしていくこと。それからふたつ目が先端的サービスの提供によって、幅広い分野において住民の利便性向上を目指すということ。最後がサービスを実現していくために、国家戦略特区という制度を活用して大胆な規制改革を起こすことです」

森山文子さん/大阪市デジタル統括室 スマートシティ推進担当部長

大阪のスーパーシティ構想の対象地区となるのは、2024年夏頃に先行まちびらきする「うめきた2期」、2025年の「大阪・関西万博」開催地である人工島「夢洲」だ。いずれの対象地区も既存の都市をつくり変えるブラウンフィールド型ではなく、更地をゼロから設計・建設するグリーンフィールド型の開発だ。
「スーパーシティはチャレンジの場でもあり、スピーディさが求められています。2030年の未来社会のモデルとして、うめきた2期や夢洲といった、大規模に新規開発できるグリーンフィールドがあるのは、大阪の強みでもあります」

大阪のスーパーシティ構想が掲げるテーマは「データで拡げる“健康といのち”」だ。ヘルスケアとモビリティの分野に焦点を当てて、先端国際医療サービスや次世代モビリティとして期待される日本初の空飛ぶクルマの社会実装に向けての取り組み等を大胆な規制改革とともに3段階のフェーズに沿って進めていく。
たとえば万博が開催されるまでのフェーズⅠでは、ヒューマンデータとAI分析等によるエビデンスに基づく健康増進プログラムの提供、夢洲における工事を円滑に進めるための建設作業員の健康管理や気象情報等のAI解析、また、自動運転車(レベル2)*1による作業員と工事資材等の混載輸送や、ドローンを活用した資材の運搬等を提案している。フェーズⅡでは、万博開催時に大阪府・市が設置する大阪パビリオンで未来の診断や健康ケア、未来医療が体験できるサービスの提供や、自動運転車(レベル4)*2を実装するほか、万博会場につながる、空のアクセスとして空飛ぶクルマが運航される予定だ。万博後のフェーズⅢには、スーパーシティで実装するデータ連携基盤等を通じ、健康、医療、介護、薬剤、スポーツ等あらゆる分野のサービスをつなぎ高度化を図る次世代PHR*3のほか、空飛ぶクルマが日常的に普及されることを目指している。

神林祐一さん/三菱地所株式会社(うめきた開発推進室副室長)

うめきた2期に携わる三菱地所の神林祐一さんは、スーパーシティとして大阪が選ばれた時のことを振り返る。
「うめきた2期事業は、大阪駅前という関西随一の立地に広大な都市公園をつくるというプロジェクトです。こうした大規模なグリーンフィールド型の開発は国内を見渡してもなかなかありません。さらにスーパーシティが謳う複数分野の先端的サービスや大胆な規制改革等によって『まるごと未来都市』の実現を目指していくという方向性は、うめきた2期区域のまちづくりの目標である『みどりとイノベーションの融合拠点』の実現に非常に通ずるところがあると感じていました」

実際にスーパーシティと指定されたことで変化したことを聞くと「これまでもうめきた2期区域で、将来の社会が大きく変わるようなイノベーションを起こそうと行政の方とも想いをともにしながら進めていましたが、スーパーシティに指定されたことで開発を進めていく環境が整い、より一層関係性が強まりました。今後は、データ活用に関してこれまではうめきた2期事業者で検討を進めていたところを、大阪府が広域データ連携基盤のシステムを構築するとの考えを示したことにより、行政機関等と横断的にデータ活用できるようになると期待しています」

竹本忠博さん/株式会社 竹中工務店(大阪駅北地区事業本部主任)

同じくうめきた2期の開発事業者である竹中工務店の竹本さんは、大阪がスーパーシティ区域と指定されたことを好機だと話す。
「スーパーシティ構想が掲げられた背景には、世界の都市間競争から見た日本の都市の危機感や課題意識があると理解しています。特に、国家主導で独自の成長を遂げている中国沿岸都市(雄安新区、杭州市)、人口増の勢いそのままに発展が続く東南アジアの各都市は、年々その存在感を増しています。大阪の国際都市としての価値を上げていくと考えた場合に、公民が連携するさまざまな取り組みの機会を生み出す枠組みをいただけたことは、国際競争力を高めていく上でも大きなチャンスだと捉えています」

今春に実施された内閣府の「スーパーシティ構想の実現に向けた先端的サービスの開発・構築等に関する実証調査業務」で実証調査のサポートをした三菱地所の神林さんは、実装される予定の先端技術の1例をこう紹介する。
「私たちはふたつの先端的サービスの調査を行いました。ひとつが画像データ等を活用した管理業務のスマート化の実証調査です。これはAI支援ビデオ監視ソフトウェアを使って、防犯カメラ機器により取得される画像をAI画像解析技術によってリアルタイムで解析し、監視範囲の異常を検知していくものです。かなり精度が高く、警備員がずっと張り付いて監視せずとも大丈夫なシステムになっていくという期待があります」

AI支援ビデオ監視ソフトウェア「icetana(アイセターナ)」。AI画像解析により監視カメラデータを自動学習し、日常の活動と異なる事象を識別・検知する。
イヤホン型脳波計測「VIE ZONE(ヴィーゾーン)」。イヤーチップが電極となり、耳から脳波を計測。イヤホンを装着するのと同じ感覚で使用することができる。
XRテーマパーク『ティフォニウム』では、VR・ARを使った先端テクノロジーと、細部までデザインされた世界観により「魔法のような体験」を楽しむことができる。

もうひとつは、VRコンテンツ体験中での脳波計測のデータ有用性に関する実証調査だという。同調査に携わった竹本さんは、今回の調査の手ごたえについてこう語った。
「装着感によるストレスが少ない、耳から脳波を取得できる小型デバイスを使用しました。それを装着し、VRコンテンツを20名程度の方に体験していただき、データの有用性を検証して今後の活用知見を得ることができました。私たち2期事業者としては、今後もうめきた2期に訪れていただける多様な方や企業と一緒に、今回の実証調査のようなトライアンドエラーを繰り返しながら、イノベーションを実現し続けられる場所にしていきたいと思っています」
これについて神林さんも、「4.5ヘクタールの都市公園実証実験フィールドとして、先端技術をうまくつなげていけば、世界でもなかなか類を見ない都市になっていくのではと期待しています」と意気込みを語った。

これまでは規制が壁となり、新たな技術の採用や実用化に向けてチャレンジしづらい面もあったが、スーパーシティと指定されたことで大胆な規制改革が可能となり、未来都市の実現を加速させるだろう。その到達に向けて包括的にサポートし、後押しする大阪府と大阪市。しかしながら森山さんはこう語る。

「国家戦略特別区域に指定されたとはいえ、“スーパーシティ”という冠がつくことで自動的に何かが出来上がっていくわけではありません。先端的サービスも一つひとつ紐解けばそれぞれの事業者のアイデアや創意からスタートし、我々公共がしっかり環境を整備してマッチングすることで生まれていくものです。それらが集積し束ねられて初めてスーパーシティが出来上がっていくのです」

産官学がしっかりとタッグを組み、うめきた2期や夢洲といった、グリーンフィールドで行われたスーパーシティの取り組みがやがて大阪全域へ、そして全国、世界へ発信されていく。大阪ならではの未来都市スーパーシティが果たす役割は大きい。

*1 自動運転レベル2:運転操作の主体はドライバー。システムがアクセル・ブレーキ操作またはハンドル操作の両方を部分的に行う。

*2 自動運転レベル4:運転操作の主体はシステム。決められた条件下で、全ての運転操作を自動化。

*3 PHR:Personal Health Record。個人の健康診断結果や服薬歴等の健康等情報を電子記録として本人や家族が正確に把握するための仕組み。

撮影:東谷幸一 文:脇本暁子

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