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地域性や文化をHACK(ハック)し、新しい大阪を表現するライフスタイルホテル

テーマ:キャノピーbyヒルトン大阪梅田_内装デザイン

地域性や文化をHACK(ハック)し、新しい大阪を表現するライフスタイルホテル

世界各地に約7,000軒のホテルやリゾートを展開するヒルトングループが、2014年にスタートさせたライフスタイルブランド「キャノピーbyヒルトン(以下、キャノピー)」。そのキャノピーが、2024年にうめきた2期に日本初上陸する。同ホテルは、“自分らしい滞在”をテーマに、その土地の特性に合わせてサービスもデザインも変えていくという。「キャノピーbyヒルトン大阪梅田」が目指す“大阪らしい、うめきたらしい”ホテルについて、事業者とデザイナーの思いを聞いた。

左から、今井充彦さん/株式会社日建スペースデザイン(シニアデザイナー)、西中ちひろさん/オリックス不動産株式会社(投資開発事業本部 大阪営業部 うめきた開発推進室 プロジェクトリーダー)、米澤研二さん/株式会社日建スペースデザイン(チーフディレクター)

ホテルを担当するオリックス不動産の西中ちひろさんは、キャノピーのコンセプトをこう話す。
「キャノピーは、ゲストがリラックスして滞在することができるのはもちろん、滞在中のさまざまな体験を通じてポジティブステイを実現するホテルです。そのために、お客さま志向のシンプルなサービスと快適な空間、その土地ならではのこだわりのものを提供していきます。また、その土地のエッセンスを取り入れたデザインを大事にすることで、ゲストがその場所のストーリーをより深く知るための手助けをします」

外国人にも日本人にも納得してもらえる“大阪らしさ”のさじ加減が難しいと語るオリックス不動産の西中ちひろさん。「だからこそやりがいがありますし、うめきた2期には3つの異なるタイプのホテルが誕生しますが、キャノピーが一番うめきたらしさを感じられると言ってもらえたらうれしいです」。

うめきた2期に誕生する「キャノピーbyヒルトン大阪梅田」のデザインを手がけるのは、日建スペースデザインだ。西中さんは「コンペの段階からキャノピーへの理解度が高く、その上で、うめきた2期にできる『キャノピー』をデザインしようと真正面から取り組む姿勢がヒルトン側からも高く評価されました。また私たち事業者も、日本初進出となるキャノピーを共につくり上げていく心強いパートナーになってくれると確信しました」と太鼓判を押す。

日建スペースデザインの米澤研二さんは、海外のキャノピーに訪れたときのことをこう振り返る。
「キャノピーは2014年に立ち上がった比較的新しいブランドで、世界でもまだ37軒しかなく、いずれもその所在する都市に合わせてアップデートされ続けている地域密着型のホテルだと感じました。また、キャノピーの大事な要素のひとつに『Neighborhood(ネイバーフッド)』というものがあります。近隣性、つまり近隣との関係性を重要視するという考え方なのですが、アメリカのキャノピーではその土地にゆかりのあるものでつくったウェルカムチョコレートが出てきたり、滞在するゲストに対しても、いわゆる“おもてなし”というよりは“ご近所さん”のようなオープンで近しい関係性を築いたりしていました。それらを踏まえ、『その土地を映すホテル』というキャノピーならではのコンセプトを具現化するために、大阪らしさとは何だろう? と改めて考えたときに、大阪の気質であるユーモアを切り口にデザインして、それを空間に落とし込むことを意識しました」

日建スペースデザインの米澤研二さんは、年間100軒程度、ホテル滞在し客室を採寸しながら手描きスケッチを続けているホテルフリークだ。「これまで訪れた街のどれとも違う、新しい空間と新しい時間と新しい体験ができると思います」と多大な期待を寄せている。
「たとえば、ニューヨークといったらセントラルパークがイメージされるように、梅田といえばうめきたと誰もが思い浮かべるようになる。うめきた2期に新しい街が誕生することで、大阪のイメージがアップデートされていくと期待しています」と日建スペースデザインの今井充彦さん。

キャノピーのコンセプトにある地域独自の特色を持ったホテルを目指すうえで、「キャノピーbyヒルトン大阪梅田」は大阪の気質であるユーモアを切り口とする。そして、そのユーモアをキャノピーらしいデザインとなるように昇華させたキーワードが「大阪をハックする」というものだ。この強烈なキーワードについて、シニアデザイナーの今井充彦さんはこう説明する。

「『hack』は、直訳すると叩き切るとか切り開くという意味です。コンピューターに不正アクセスをする『hacking(ハッキング)』や『hacker(ハッカー)』など、一般的にネガティブなイメージを持たれていますが、本来の『hack』は高い技術力で難しいことを巧みに解決していくという意味があり、『大阪をハックする』ということは既成概念の形を変え、新しいアイデアをミックスして、これまでのシステムを書き換えていくことを指しています。キャノピーというフィルターを通して、大阪の地域性や文化を、ユーモアを持ってハックすることで新しい大阪を表現したいのです」

10階から11階のキャノピー・セントラルに続く吹き抜け空間
串カツをハックした照明が印象的な、キャノピー・セントラル内のオールデイダイニング

さまざまな大阪のモチーフをハックしたデザインの中には、たとえば串カツや豚まんから発想を得た大胆なデザインの照明や、大阪の八百八橋にインスパイアされたグラフィカルなモチーフを散りばめたカーペットなど、ホテルの随所に大阪を感じられるものを考えているという。より具体的な例として挙げられたものは、エントランスホールの天井意匠だ。キャノピーのイメージを印象付ける顔となるように、ひっくり返したたこ焼き機をモチーフに、わかりやすい大阪らしさをハックしたデザインとしている。また、大阪を代表するモチーフだけではなく、よりローカルな、うめきたの記憶を思い起こさせるような仕掛けもあると今井さんは語る。

「ホテルができるうめきた2期の敷地は、元々は梅田貨物駅跡地でした。館内11階にその操車場の枕木を連想するシーソーを設置する予定です。また地下鉄御堂筋線の蛍光灯を使ったシャンデリアをオマージュした照明など、この場所に特化したデザインモチーフも無数に散りばめています。一見した限りではわからないようなものでも、スタッフとの会話がきっかけとなり、デザインの由来や文化などの新しい発見をしていく。僕らが滞在したほかのキャノピーでもそうでしたし、それがキャノピーの本質だと思っています」

このキャノピーデザインの本質について、米澤さんもこう続ける。「茶道には見立てという、そのまま表現するのではなく別のものになぞらえる表現技法がありますが、ストレートに表現するのではなく、含みを持ったユーモアで見立てるというのも、大阪らしさなのかなと感じています。茶道といえば、わび茶を大成した千利休も大阪の堺出身ですから」。

「キャノピーbyヒルトン大阪梅田」が開業するのは、北街区賃貸棟10階~25階の高層部分だ。同ビルの低層階には商業施設とうめきた2期におけるイノベーション支援の役割を担う中核機能が、また眼下には公園が広がっており、多様な来街者が交じり合う『みどりとイノベーションの融合拠点』といううめきた2期のテーマ性をもっとも色濃く体現するエリアのひとつである。うめきた2期とキャノピーが共存することで生まれる価値について、西中さんはこう話す。
「中核機能では、人と人、企業同士の交流によって新しい技術やサービスを生み出すライフデザイン・イノベーションの創出を目指しています。同じ建物内にあるキャノピーでもスタッフとゲストやゲスト同士、または中核機能からホテルを訪れる人たちなど、いろいろな人が交わりつながることで、非常にエネルギッシュな活動が垣間見えていくのではないかと期待しています。そうした意味でうめきた2期とキャノピーの目指している方向は同じで、非常に親和性があると言えるでしょう」

とくにホテルを象徴する場でもあるキャノピー・セントラルは、うめきた2期が目指す姿にリンクしていると今井さんは言う。
「エレベーターで11階に上がって目の前に広がるのが、キャノピー・セントラルです。通常のホテルではレセプションはレセプションとして空間を区切られていますが、ここではレセプションからオールデイダイニング、バーさらに屋外庭園まで全部ひとつながりのシームレスな空間になっています。屋外庭園はうめきた2期の都市公園の延長線上になっているような感覚です。ここにゲストだけではなく、働いている人や地域住民など、多様な人々が集い、さまざまなことが同時多発的に繰り広げられていくでしょう」

ネイバーフッドという視点を重視し、近隣やホテル内においてもオープンで緩やかにつながった空間で構成されている「キャノピーbyヒルトン大阪梅田」。ホテルで人々が出会いつながり、新しい発想が生まれ、縦横無尽に広がっていく。その姿はうめきた2期の新しい都市をアップデートしていくだろう。

写真:内藤貞保 文:脇本暁子

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