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新しい仮設建築物が、都市のあり方を変える

西尾公志

新しい仮設建築物が、都市のあり方を変える

近年、モノを所有するのではなくレンタルやシェアリングの考え方がスタンダードになってきている。建設業の建機レンタルを手始めに総合レンタル業のパイオニアとして名高いのが西尾レントオール株式会社だ。同社の西尾公志社長に話を聞いた。

「私たちが建設機械のレンタル業を始めたのは1965年、この時期はちょうど高度経済成長期にあたり、70年の大阪万博に向けた建設ラッシュの頃でした。当時は建設機械が非常に不足していた時代で、足りないものをレンタルするという需要が高くなっていました。当時のレンタルの位置づけは臨時の調達方法というものでしたが、時代が進むにつれ、機材を保有するのではなく、経営の合理化という点から必要な時にレンタルを有効に活用するという考え方へ変わっていきました。さらに近年はシェアリングエコノミーが普及し、経済的な効率化からではなく、資源を無駄にせず地球環境に負荷がかからないようレンタルあるいはシェアリングの活躍の場が広がってきたように思います」

西尾公志さん/西尾レントオール 代表取締役社長

開発中のうめきた2期に隣接する1000日間限定の実証実験空間「うめきた外庭SQUARE」では、西尾レントオールは運営パートナーとして参画している。ここで活動することは新たな事業を具現化する好機だったと西尾さんは言う。「これまで我々はイベント機材などモノをレンタルすることに特化していましたが、より広い分野でレンタルを有効活用することで、さまざまな社会問題に対して解決策を提案していく事業を始めようとしていました。ちょうどそのタイミングでうめきた外庭SQUAREの運営に携わることになり、思い描いたことが実現できると思いました。そのひとつが『MIDORIオフィス』です」

「MIDORIオフィス」とは、2020年10月に「うめきた外庭SQUARE」で一時的に本社機能の一部を移転し行われた実証実験だ。災害など有事の際に、屋外かつ仮設環境で通常通りの業務を行えるのか、屋外でのオフィスワークが働く人にとってどのような影響を及ぼすのかなど、自社で取り扱う移動型オフィスのトレーラーハウスなどの仮設や無線通信システムなどを使ってBCP対策の実用性検証を行った。

「その期間中にあわや台風上陸かとヒヤリとすることもありましたが、実証実験をともに取り組んだ独立行政法人都市再生機構(UR)やスタートアップ企業2社と心理的な距離が近くなったことが印象に残っています。通常でしたら打ち合わせひとつするにしても、まず電話やメールでアポイントを取りますよね。でも徒歩数十秒ですから、直接伺った方が早いわけです。出向いてすぐ意見交換ができる、こうした環境がうめきた2期で本格的に整えば、新しいアイデアが生まれたり、スピーディに新しい事業につながったりするのに非常に効果のあるやり方だと実感しました」

他にも「うめきた外庭SQUARE」で、建設現場やイベントで培ってきたノウハウを詰め込んだLQCアプローチ(Lighter、Quicker、Cheaper)の商品を展示した「仮設のチカラ」や、都心での被災を想定した防災イベント「うめきた防災のチカラ」など公共空間やオープンスペースの新たな可能性を追求している。

2020年10月に「うめきた外庭SQUARE」で行われた実証実験「MIDORIオフィス」。一時的に本社機能の一部を屋外に移転し、青空の下で3mのパラソルやガーデンテーブルで業務を行なった。
LQCアプローチ商品発表会「仮設のチカラ」では、鉄道コンテナをオフィスや店舗に活用したものや昇降機付きの医療目的に使えるもの、シャワー付きやテラスが付いているもの、ラグジュアリートイレのトレーラーBOXまで居住性やデザイン性に優れたLQCアプローチ商品を展示した。
防災公園として一時避難場所の役割を想定されているうめきた2期。西尾レントオールが企画・運営した防災イベント「うめきた防災のチカラ」では、コンテナBOXを活用してさまざまなイベントを開催。

2023年3月末には、大阪ベイエリアの咲洲に「西尾レントオール咲洲R&D国際交流センター(仮称)」が竣工する。技術開発や人材育成の新たな拠点になるそうだが、西尾さんは施設の構想をこう語る。「1万坪ある敷地の西側には当社の研究開発部門が入ります。我々のビルの中を広場と横断歩道機能を併せたペデストリアンデッキが開通する予定で、そこで地域の企業や地域の方々とコラボレーションをしていきたいと考えています。また約1,350平米の木造アリーナを整備し、隣接するミズノ株式会社や森ノ宮医療大学とも地域コミュニティを活性化するために色々計画しています」。東側には、木造建築の研究施設と加工場ができる。今後は都市部でも大型木造建築が注目され増えていくだろうと西尾さんは話す。

2025年に開催される大阪・関西万博でも、世界最大級の木造建築であるリング型の大屋根がシンボルとして建造される。
「我々が木造建築のパビリオンを勧める理由は、万博開催予定地の夢洲は人工埋立地で基礎を深く掘ることができません。ですが木造であれば基礎も1m掘れば充分です。また工期も非常に短くなり、万博終了後に木材は繰り返し転用や再利用することが可能なので、産業廃棄物も減らすことができます。ただ木材は非常に繊細な素材で、水を含んだりすると強度が変わるため現場で最終的作業を必要とします。この施設が木材の最終的な集積場となり加工場にすることで大阪・関西万博や都市部の木造建築作業をスムーズにすることが可能になります」

大阪府咲洲庁舎や2025年の大阪・関西万博の開催地となる夢洲とも近い大阪市住之江区の南港咲洲に展示場やMICE関連施設、研究所などを備える大型複合施設「西尾レントオールR&D国際交流センター(仮称)」。
木造で素早く大規模な建物をつくる木造モジュールの最新技術によって実現した木造アリーナ。国産木材で規格化された部材を使うので繰り返し転用が可能だ。

最後に現代において都心における仮設建築物の新たな可能性について伺った。
「一般的に私たちは仮設と呼んでいますが、本当の狙いは仮設と本設といった建築物の垣根をなくしたいと思っています。仮設とは法的には基本的に1年未満の建築物のことを指し、目的も限定的です。ですが建築物の全てが30年、50年と使い続けることを前提として建てられていますが目的によっては、例えば5年間だけ大型テントを病院として使用することがあってもいいはずです。しかし、現在の法律ではそれが不可能なのです。また人口減少などの要因で体育館としてつくられたものが商業施設など別の目的に転用するといったフレキシブルな使い方ができれば、都市開発はもっと柔軟な考え方で進んでいくはずです。大阪・関西万博のパビリオンではそうした可能性を提案していきたいですし、大阪・関西万博やうめきた2期の大型都市開発は規制緩和に向けた絶好のチャンスだと捉えています」

丸紅木材株式会社の国産ひのきを使って無塗装で仕上げた木のおもちゃIKONIH(アイコニー)。西尾レントオールのイベントなどで国産木材の魅力を発信している。

西尾レントオールが「うめきた外庭SQUARE」の実証実験で得た知見と新技術の木造仮設建築は、都市の公共空間を自由に柔軟に使う可能性を秘めており、それはこれからの都市のあり方を変えていくに違いない。

西尾公志(にしお・まさし)
西尾レントオール株式会社代表取締役社長。1960年大阪府出身。1985年東京大学経済学部卒業。株式会社小松製作所を経て87年入社。94年に父であり創業者の西尾晃氏から経営を引き継ぐ。

写真:内藤貞保 文:脇本暁子

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