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地域の魅力を世界へ発信する、MICEビジネスの新たな可能性

武内紀子

地域の魅力を世界へ発信する、MICEビジネスの新たな可能性

コンベンション(国際会議・学会)の運営を基盤として、全国の会議場やホール、文化施設などの管理運営を手がけるコングレ。自社のコンベンションセンターをうめきた先行開発区域に展開し、今後もうめきた2期・中核施設等、大阪エリアでの拡大が予定されている同社の武内紀子社長に話を聞いた。

2008年の「北海道洞爺湖サミット」、2012年の「IMF(国際通貨基金)・世界銀行年次総会」、2016︎年の「伊勢志摩サミット」といった歴史に残る国際会議から大規模展示会やイベント、企業ミーティングなどの運営を手がけるコングレ。創立当初はコンベンション運営会社としてスタートしたが、近年はMICE*のトータル企業として業界トップを走り続けている。社長の武内紀子さんがこの業界に興味を持ったのは、大学時代のアルバイトがきっかけだった。「大学の掲示板で見つけた、学会のアルバイトを体験したことが原点です。さまざまな分野の人と出会い、お話ができる仕事に魅力を感じました。その後、最初に就職したコンベンション運営会社でも、まさに『ニュースな仕事』に関われることが楽しくて仕方なかった。仕事を通じて政治・経済・医学といった社会的な問題に関わることで、どんどん好奇心が育てられましたね」

昔から新聞を読むのが大好きだったと話す武内さん。政治や経済、医療の先端に関わる「ニュースな仕事」にやりがいを感じながら、縁の下の力持ちとして仲間とともに奔走する。「本物の施設に本物のサービスを」がモットー。
「国際会議のコングレ」として数々のコンベンションの運営に携わる。社員は事前準備から当日の進行管理まであらゆる場面に関わり、サミットなどの成功を支える。

1990年、会社の仲間約20人とともにコングレを設立。創業1年目から大阪の水族館「海遊館」や「国際花と緑の博覧会」の仕事に携わった。現在は自社施設をはじめ、公の施設の指定管理者、民間企業からの受託施設を合わせて、運営する施設は全国で90を超える。「2010年に、名古屋市の『名古屋国際会議場』の指定管理者を公募することが決まったときも真っ先に手を挙げました。2012年に『全日本吹奏楽コンクール』を中学校、高等学校部門の会場として誘致して以来、同施設のセンチュリーホールは『吹奏楽の聖地』と呼ばれるようになりました。昨年はコロナ禍でコンクールが中止になりましたが、全国大会常連の5つの高校による演奏を配信し全国に応援メッセージを送ったところ、非常に大きな反響をいただきました」。単に会場を提供するだけでなく、自治体と民間企業が主催者と一体となって、社会的な発信をサポートするのがMICE 本来の役割だと武内さんは言う。

羽田イノベーションシティ内にオープンしたコングレスクエア羽田では、今年3月に「MICEイノベーション研究会」の実証実験を実施。コロナ禍でのMICE開催に役立つ技術やサービスに関心が集まった。

近年は自社施設のオープンも相次ぐ。2013年に開業したうめきた先行開発区域の「ナレッジキャピタル コングレコンベンションセンター」は1,700㎡のホールと9つのカンファレンスルームを擁し、同社の施設としては最大規模を誇る。今後開業が予定されているうめきた2期地区のMICE施設と、中之島の未来医療国際拠点のMICE施設を合わせ、大阪というまちを新たなブランドとして発信したいと意欲をみせる。「最近は『エリアMICE』という言葉が注目されています。ひとつの施設で会議をやって終わりではなく、うめきたのように魅力的な場所であれば、そこで行われているほかの事業やイベントと組み合わせてさまざまな体験や出会いが生まれるでしょう。ここを訪れたみなさんに、まちの特色を生かした経験を少しでも多く持ち帰ってほしいと思います」。大規模な国際会議ともなると、1週間近く滞在する参加者も少なくない。その間、緑あふれるうめきた2期地区で、ランニングやリラグゼーション施設の利用ができる、快適な環境の提供がまちの付加価値を生むと武内さん。

JR大阪駅に直結したナレッジキャピタル コングレコンベンションセンター。1,700㎡、天井高7.4mの広々したメインホールは、国際会議や学術会議、展示会やレセプションなど、幅広く利用できる。

大阪出身である武内さん、このまちへの思いもひとしおだ。「大阪には、なんでもやってみようという気質があります。ビジネスにおいても失敗を恐れず勇気を持って取り組む心意気が大事ですね。2025年に開催される『大阪・関西万博』も間近に控え、イベント自体の成功はもとより、これをレガシーとしてどのように残すのか。受け皿としてのコンベンションセンターを、いかにして次へつなげるのか、その役割の一端を我々が担っているのです」。うめきた2期で、駅に直結したビル内に設けられるカンファレンスホールは、集客力の面でも抜群のロケーションだ。これを点として終わらせるのではなく、周囲の商業施設やイノベーション支援施設等と協力することで線や面となってまちづくりへ発展させたいと武内さん。「大阪は国際空港が立地する大都市でありながら、経済界や自治体が一体となって地域性を発揮している。大阪で会議をし、京都や奈良、神戸で観光をすれば関西エリアの魅力も発信できるでしょう。中・長期的な視野に立ち、地域発信の戦略実現ツールとしてMICEを使っていただきたいのです」

コングレスクエア日本橋のホールに配信設備をセットし、「スポーツビジネスジャパン2020オンライン」のライブ配信を実施。日本のスポーツビジネス界を代表するプロフェッショナルたちが登壇し、話題となった。
コングレスクエア羽田にて開催した「MICEイノベーション研究会」では、avatarin社のnewmeを遠隔操作して、非接触での受付や案内をするなど、さまざまな実証実験を行った。

日本コンベンション協会代表理事、経団連の審議員会副議長と、活動の場を広げる武内さん。コロナ禍で世界経済が苦境に立たされているなか、日本がこれから果たす役割について伺った。「日本人は自国に対する評価が低いといわれていますが、コロナ禍のいま、世界では訪れたい国の上位に日本がランクインしています。産業、文化、自然とさまざまなコンテンツが注目されているのですから、我々はもっと自信を持っていい。いいところをどんどん世界へ発信してイニシアチブをとるべきです。アメリカ、中国との関係や、アジア地域における日本の立ち位置を考えれば、日本が国際協調の場を設けることの意味は大きいと思います」。最近では、イギリスの会社との出会いからスポーツビジネスの展示会・セミナーを展開するなど、海外との関係構築にも積極的だ。パンデミックが収束したあと、世界の競争に出遅れないよう、つねに海外にもアンテナを立ててビジネスチャンスへの目配りも忘れない。国内の豊かなコンテンツを世界へ向けて積極的に発信すべく、会場でのリアルの出会い、オンライン、そしてそれらのハイブリッドとあらゆる方法を模索しながら、つねに時代の先端へと走り続けるMICEビジネスに、今後も注目したい。

武内紀子(たけうち・のりこ)
大阪大学人間科学部卒業。1990年コングレ設立に参画。サミットなどの国際会議、博覧会、ナレッジキャピタル コングレコンベンションセンターなどのMICE施設や劇場、科学館、水族館などの文化施設、展望台などの観光施設の業務に従事し、2013年6月から現職。日本コンベンション協会代表理事、経団連審議員会副議長・観光委員長も務める。

*MICE:会議(Meeting)、報奨旅行(Incentive Travel)、政府・国際機関や学会による国際会議(Convention)、展示会・イベント(Exhibition/Event)などの総称。

ポートレート:藤本賢一 文:久保寺潤子

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