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XRという名の魔法で、街全体を体験型メディアに

深澤 研

XRという名の魔法で、街全体を体験型メディアに

AR/VR/MR*といったXRコンテンツの企画・開発を手がけるティフォン株式会社(以下ティフォン)CEOの深澤 研さん。うめきた2期との協業、未来のXRの可能性について語ってくれた。

*AR(Augmented Reality)は拡張現実、VR(Virtual Reality)は仮想現実、MR(Mixed Reality)は複合現実の略。

2011年にティフォンを立ち上げた深澤さん。スタートアップ企業として注目されたのは2013年に開発したセルフィーARアプリ『ゾンビブース2』のヒットによる。自分の顔が恐ろしいゾンビの顔に変化していくこのアプリは、シリーズ累計4,000万ダウンロードを記録。この成功をきっかけに同社はThe Walt Disney Companyが主催するテクノロジー主導型メディアやエンターテイメントを領域とするスタートアップ企業の育成プログラム「ディズニー・アクセラレーター」に2014年、アジアで初めて採択された。「私の原点は4歳のときに体験した東京ディズニーランドの『ホーンテッド・マンション』です。 “ここではない違う世界”に行ける魔法のような体験をつくりたい、という子どもの頃からの夢はいまも変わっていません」

The Walt Disney Company主催のスタートアップ支援プログラム、ディズニー・アクセラレーターは世界から1,000社以上の応募があるが、ティフォンは11社の採択企業に選出された。

大学卒業後に外資系の会社でエンジニアとして働き、その後独立した深澤さん。ヨーロッパの古典的な画法であるテンペラを独学で学び、絵画によって構成された映画を友人の深田晃司監督と共同で制作。バルザックの小説を原作としたこの作品で、深澤さんはアーティストとしての力量を発揮し、フランスのKINOTAYO映画祭で深田監督と共にソレイユドール新人賞を受賞した。「ディズニーではテーマパークのデザインや設計をする人のことをイマジニアと呼んでいます。イマジネーションとエンジニアを組み合わせた造語ですが、私もクリエイティビティとテクノロジーを組み合わせたテーマパークや新しい体験をつくりたいと思い、会社を設立しました」

2007年、深田晃司監督と共同制作した映画『ざくろ屋敷 バルザック「人間喜劇」より』。テンペラで描いた細密な描写がみごと。

現在、お台場のダイバーシティ東京 プラザで展開しているVRテーマパーク「ティフォニウム」は、次世代テクノロジーによる没入体験型エンターテインメント施設だ。利用者はホラーやファンタジー、タロットや怪獣など、複数のコンテンツの中から好きなものを選び、専用ブースで魔法の世界を体験するというもの。プレイヤーはゴーグルをかけた瞬間、精巧に構築された異次元のファンタジー世界へと誘われる。「私たちが目指すのは “記憶に残る体験”です。今後はエンターテインメントに限らず、さまざまな分野にVRを応用できたらと考えています」。たとえば学校の教材や、企業の研修用コンテンツなど、さまざまな分野においてバーチャルメディアは未知数の可能性を孕んでいる。

ウォークスルーホラーVRアトラクション『コリドール』。体験者が自分の足で仮想の世界を歩いて進むことで、まるでそこにいるかのような没入感の高い体験ができる。(画像はイメージです)
「日常とファンタジーの境界が溶けていくような表現が好き」と話す深澤さん。

うめきた2期との協業においては、都市空間を体験メディアにする試みを模索中だ。「3月にうめきた2期地区で行った実証実験では、VR体験中に被験者にイヤホン型脳波計をつけてもらい、脳波を測定しました。体験中の脳波を測定し、心理状態を推定することで、将来的にはパーソナライズされたエンタメ体験を提供したいですね」

どのような体験で心が動くかは人によってさまざまだ。そこでヒューマンデータを使って、一人ひとりに応じたコンテンツを臨機応変に提供したい、と深澤さんは言う。また密閉された空間ではなく、屋外で体験するバーチャル世界というのも、新しい試みだ。「現在メディアの主流はスマートフォンの画面ですよね。小さいスクリーンの中で映像やコンテンツを楽しんでいる人が多いですが、これは非常に受動的になりがちな体験です。うめきた2期では11月に実証実験イベントを行い、公園という現実のフィールドに身を置きながら、リアルとバーチャルが融合した世界を楽しんでもらうための技術的な検証を行います。これによってスクリーン上の受動体験から、自分が実際に動く能動体験の場への提案ができたら、と考えています。XR体験は視聴覚が圧倒的に優位なメディアですが、屋外では風や温度、匂いなどが総合的に作用して、 “今、ここでしかできない体験”ができるようになるでしょう」

新たな体験価値の創出やユースケースのトライアルを目的とした実証実験イベント「MIRRORGE UMEKITA TRIAL: Enchanted Garden(ミラージュ うめきた トライアル:エンチャンテッドガーデン)」は、2022年11月23日(水)~27日(日)の4日間にわたって開催される。

「Enchant Your World(世界に魔法のような彩りを)」をビジョンに掲げるティフォン。街に魔法をかけ、自分自身で世界に変化を起こしていくことで、誰もが物語の主人公になれる……。そんなワクワクできる体験が、近い未来に実現されようとしている。

深澤 研(ふかざわ・けん)
横浜国立大学卒業後、サン・マイクロシステムズにてエンジニアとして勤務。その後、絵画や映像制作に取り組み、国際映画祭や芸術祭などに出展。国内外で数多くの賞を受賞する。2011年ティフォン株式会社を創業し、エンターテインメントを中心としたVR/AR/MRコンテンツの企画、開発を手がける。セルフィーARアプリ『ゾンビブース2』が世界中でヒットし、ディズニー・アクセラレーターにも採択された。

写真・藤本賢一  文・久保寺潤子

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