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まちの魅力向上のために共創する仕組みづくり、「MIDORIパートナー制度」とは?

テーマ:MIDORI パートナー制度

まちの魅力向上のために共創する仕組みづくり、「MIDORIパートナー制度」とは?

JR大阪駅前に誕生する新しい街「グラングリーン大阪」。その街の中心となる「うめきた公園」は、約4.5ヘクタールもの広大な緑地空間であるとともに、商業施設やオフィス、ホテル、中核機能などを有する民間宅地とシームレスにつながる。みどりを中心としたパブリック空間をうまく活⽤することで実現する豊かな都市⽣活、そのために必要な要素とは何か? その役割の一端を担う「MIDORIパートナー制度」について、開発事業者に詳しく聞いた。

左から、内田健弥さん/三菱地所株式会社(関西支店 グラングリーン大阪室 主事)、中野草太さん/阪急阪神不動産株式会社(うめきた事業部 うめきたグループ 兼 都市マネジメント事業部 )

グラングリーン大阪は50年間に及ぶ長期の公園指定管理と、公園に隣接する大規模複合ビル 、道路を一体的にマネジメントするという、日本では先進的なプロジェクトだ。世界的都市ターミナル駅前の公共的空間として相応しい高質な維持管理や、都市の国際競争力向上の実現に向けて、長期的な目線でまちづくりを進めるために、パークマネジメントとエリアマネジメントを一体的に行う組織 「一般社団法人うめきたMMO * (以下、MMO)」が2023年6月に設立された。
MMO の活動を持続的に展開していくために設けられたのが「MIDORIパートナー制度」であると三菱地所株式会社の内田健弥さんが説明する。

*MMO=“MIDORI” Management Organization

「MIDORIパートナー制度は、 うめきた公園を起点とする、この街全体を一緒に支えて盛り上げていく仲間集めです。みどり空間の環境を活かし、グラングリーン大阪という街でさまざまなプログラムや大規模イベントなどを開催して日常的な賑わいの形成を図ります。そして、その活動を通じて、大阪の価値をさらに高め、世界に誇れるような街にしていく取り組みを進めていきたいと思っています。そうした理念に共感いただける企業や法人、団体に仲間になっていただくことで、一緒にグラングリーン大阪を盛り上げていきたいと思っています」

協賛制度「MIDORIパートナー制度」の概念図。
「私が就職活動をしていた頃はグランフロント大阪もまだ工事中で、梅田スカイビルに向かう際も当時は長い地下通路を通っていました(2023年11月に閉鎖)。私自身生まれ育った関西の地で、最後の一等地であるうめきた地区の開発に是非携わりたいと思い、強く希望しました」と三菱地所株式会社の内田健弥さん。

MIDORIパートナー制度のコンセプトは、「世界にいいことを、共創していくまちへ」。この言葉に込められた想いについて、阪急阪神不動産株式会社の中野草太さんが次のように振り返る。
「この制度を検討していく中で、街やみどり空間でどういう取り組みをしていくべきかを議論しました。サステナブルやSDGsはもちろん重要なテーマのひとつであり、世界規模の社会課題に挑む活動を発信していこうと思っています。ただ、それを表面に出しすぎてしまうことで市民の方々にとって取っつきにくい形にもなってしまう懸念がありました。そういったことも踏まえ、もう少し言葉をかみ砕いて“世界にいいことを”と表現することで、市民の方々がこの街に気軽に訪れ、楽しく能動的に活動したり、イベントやプログラムへの参加を通じて未来のまちづくりを考えるきっかけにもなっていただけるのではと、このコンセプトになりました」

中野草太さん は「大学の卒業論文でうめきた2期を含む大阪・梅田のまちづくりをテーマにしたほど、この地でのまちづくりに思い入れがありました。いまこのプロジェクトに挑戦できていることに感無量です」。

グラングリーン大阪の地区面積は約9ヘクタールにも及ぶ。都心の一等地に構えるみどり空間としては国内では類を見ない規模であり、そういった先行事例が乏しい中でグラングリーン大阪のコンセプト“「みどり」と「イノベーション」の融合拠点”の実現に向けて模索したという。その実現に向けて役立った取り組みが、2020年7月から2023年3月までの1000日間限定で開設した屋外型の実証実験空間“うめきた外庭SQUARE”である。

2020年、うめきた外庭SQUAREにて西尾レントオール株式会社は、災害時を想定し、本社機能を一時移転する「MIDORIオフィス」を12日間の期間で実証実験を実施した。
2022年、パナソニックグループは、アーティスト 村松亮太郎/NAKEDによるアートプロジェクト「DANDELION PROJECT」と連携し「街演出クラウド YOI-en」による照明、デジタルサイネージソリューション「AcroSign®」を用いた映像で、体験型アートによる景観演出を実施。

「MIDORIパートナー制度が実際に制度として成り立つものなのか、それをうめきた外庭SQUAREで検証していきました。結果的に複数の企業に参画いただいたことでニーズの掘り起こしができました。企業にとっては都心のオープンな空間を実証フィールドとして、新しい商品・サービスの実証実験や賑わい創出プログラムに取り組めることがユニークな点として評価いただけました。また取り組みを通じて、ほかのパートナー企業同士で連携して共創する、市民とのタッチポイントが得られて次の商品・サービス開発につなげることも、この制度だからこそ出来ることです。トライアルアンドエラーを繰り返し、制度のあり方を模索しながらも3年間の会期中に参画するパートナー企業も徐々に増えていき、一定の手ごたえを掴むことができました。うめきた外庭SQUAREでBCP対策の実証実験を行ったり、防災啓発イベント等を企画運営したりと、屋外でのくつろぎ空間や価値向上に寄与する資機材を提供していた西尾レントオール さんもMIDORIパートナーとしての参画を予定しています」と中野さんは話す。

西尾レントオールのほかにも、化粧品業界で詰め替え製品を浸透させ、環境に配慮した製品を生み出し続けているロート製薬や、2030年までに全ペットボトルをリサイクル素材や植物由来素材のみの100%サステナブル化を目指すサントリービバレッジソリューションなど、関西を拠点としたグローバル企業がパートナー企業として続々と名乗りを挙げている。MIDORIパートナー制度に参画するパートナー企業について、開発事業者側はどのようなことを求めているのだろうか? この問いに内田さんは次のように答える。
「開発事業者としては、こういった業種がいいというような要望や条件は掲げていません。SDGsや社会的責任を問われている中で、多くの企業が独自にサステナブル推進の取り組みを実施されていると思います。ですが、素晴らしい取り組みでも単体での発信では市民に伝わりきれていないのが実情です。そういった課題を抱えている、または、新たに取り組んでみたいと思っている企業に参画していただき、この場所での共創をきっかけに日本全国、ひいては世界に対して発信していけるのではないかと考えています」

うめきた公園には、建築家の妹島和世と西沢立衛が率いるSANAAが設計した大屋根イベントスペースや広大な天然芝が広がる芝生広場がある。大規模な集客イベントのみならず、イノベーションやサステナブルにつながる多様なプログラムを展開する予定だ。

今後の展望について問うと内田さんは意気込みを語った。「デベロッパーや企業からの一方通行的なコミュニケーションではなく、市民 の方々にも参加して楽しんでいただくことを意識しています。そのためには、例えばフェスの形でプログラムを構築し、そこに各企業の取り組みを集約して体験していただくイベントなども想定しています。欧米などではサステナブル系のイベントもたくさんあり、家で過ごすよりもフェスに参加した方が環境の負担が少ないとまで評されるイベントもありますが、この緑溢れるうめきた公園で開催されるイベントもサステナブルのメッカと言われることを目指しています」
持続可能な仕組みづくりである「MIDORIパートナー制度」によって、企業と行政と地域が共創し公園を含めたみどり空間の魅力が向上していく。それは新しい街の価値を世界に発信することにもつながるのだ。

写真:内藤貞保 文:脇本暁子

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