FEATURES

Life with Green

未来の公園への種を蒔き、市民とともに育んだチャレンジガーデン

日比谷アメニス

未来の公園への種を蒔き、市民とともに育んだチャレンジガーデン

世界的に活躍するランドスケープ・デザイン事務所GGNをデザインリードに起用し、開発が進められている「(仮称)うめきた公園」(以下、うめきた公園)。水都・大阪を想起させる水辺の植物や上町台地や大阪近郊の丘陵地に生育する里山植生(在来種)など大阪らしさを表現した植栽計画がなされている。なかでもシャクナゲやアジサイ、ツツジなど日本古来の植物が植栽されるガーデン空間が南公園に誕生する予定だ。そこで、2023年3月に営業を終了した屋外実証実験空間「うめきた外庭SQUARE」内の「チャレンジガーデン」において、植物の生長に関する実証実験とみどりを介したコミュニティづくりを1年間かけて行っていた。新たに誕生する公園で管理・運営業務を担当予定の株式会社日比谷アメニスから、永田勇紀さん、大西聡子さん、一箭(いちや)しのぶさんにプロジェクトの成果を聞いた。

Q.「うめきた外庭SQUARE」内で行われたチャレンジガーデンですが、同プロジェクトの概要について教えてください。

A.2024年夏頃に先行開園が予定されているうめきた公園での管理・運営に向けた実証実験として、2022年4月1日から1年間限定で始まりました。うめきた公園は、都心中心部の環境下にあるので、植物が育つには過酷な一面があります。公園内のガーデンエリアに植栽予定の植物11種を実験的に植えてみて、1年を通して育成状況を観察していくというのが主な目的でした。それとともに、チャレンジガーデンに来てくださった方々と植物を介してコミュニケーションを図り、新しく誕生する公園への期待やワクワク感を醸成していただくことも企図してスタートいたしました。(永田)

永田勇紀さん/株式会社日比谷アメニス 
左側のAと右側のBで条件の異なる土壌による植物の生長の違いを比較観察。

Q.具体的にどういった実証実験が行われたのでしょうか?

A.実証実験のひとつとして、チャレンジガーデンの敷地をAとBの2つのゾーンに分けて、土壌の違いによる植物の生長具合を比較観察しました。結果としては、水はけが良いAの土壌に植えた植物のほうが多くの根を張ることがわかりました。水はけが良いということは、通気性が良いということ。そのためAの植物は新鮮な空気を取り込み土の中に根をぐんと伸ばすことで、より環境の変化に強い丈夫な生育ができるようになったと考えられます。そうしたデータが蓄積していくことで、新しい公園で何か植物に変化が見られた際にひとつの判断材料になることを期待しています。(大西)

大西聡子さん/株式会社日比谷アメニス

Q.実証実験を通して明らかになった課題はありますか?

A.うめきた公園のガーデンエリアには、多種多様な植物が植えられる予定です。品種によって適した環境は異なるので、同じ環境下でもすべての植物がうまく生長できるかというのがひとつの課題でした。植栽予定の植物は大阪近郊の丘陵地帯の里山植生からもセレクトされていますが、里山と都市部の環境は違います。都心部では夏の夜の気温がなかなか下がらず、加えて日光の照り返しや吹きおろすビル風で乾燥しやすい。だから木漏れ日の環境を好むシャクナゲは、夏場の強い日差しで元気がなくなってしまうこともありました。植物の管理をしていく中で、調子が悪くなる環境ケースをデータとして得られたのは、来年以降の公園管理においても貴重でした。(一箭)

一箭しのぶさん/株式会社日比谷アメニス

Q.チャレンジガーデンにはいろいろな昆虫がやってきたそうですね。

A.シュウメイギクの花が咲いている時期に、ミツバチがやってきたのを見たときは感動しましたね。ほかにもシオカラトンボやモンシロチョウも見かけました。うめきた公園には高い木も植栽されるので、そこでは野鳥の姿も見られるのではないかと期待しています。(一箭)

チャレンジガーデンに飛来したミツバチ。「梅田ミツバチプロジェクトが運営する茶屋町にあるヤンマー本社ビルの養蜂場から飛んできたのかもしれませんね」と一箭さん。
チャレンジガーデンお手入れ体験は、水やりや草むしり、葉っぱの剪定など、子どもがガーデニングに親しむきっかけになった。

Q.市民の皆さまとはどういったコミュニケーションをされたのでしょうか?

A.
市民の皆さまとコミュニケーションを取るためにSNSアカウントを開設して、「今日はこんな花が咲きました」「現在はこのような実験をしています」など日々のチャレンジガーデンの情報を発信しました。週末になると親子連れも多く、子どもを中心にガーデンに興味を持ってくれる方が思った以上にいてくれて嬉しかったですね。また、双方向のコミュニケーションをするために、園内にガーデンポストを設置しました。来園者が花を見て気づいたことや疑問に思われたことを、「おはなしカード」という小さな紙に書いて投函していただき、Instagramや園内の看板でお返事していたんです。あるお子さまから「このガーデンのおかげでお花が好きになりました」とコメントをいただいて、花やみどりの魅力を伝えられたと実感しました。(永田)

あひるのジョウロを使った水やり体験や、小さな鋏で痛んだ葉っぱを切ってもらうミニガーデナー体験イベントも開催しました。都心だとなかなか土を触る機会がないのでお子さま連れの方に大変喜んでいただいて、何度も来てくださるリピーターさまもいらっしゃいました。(一箭)

2022年12月に開催された「Green Night Marche inうめきた」では、多くの来場者がライトアップされた植物の姿を楽しみ、その知識を深めつつお酒を味わった。

Q.ほかにはどのようなイベントを開催しましたか?

A.剪定したシャクナゲの枝を使って染色する草木染めの教室を開催しました。枝を剪定して煮出し、手ぬぐいを浸すのですが、次につける媒染液によって化学反応で色に変化があるので、小学生の夏休みの自由研究のテーマとしても好評でした。一方で、なるべく多くの方々に植物に親しんでいただくために、仕事帰りのワーカーをターゲットに植物をテーマにした飲食イベントも開催しました。例えば、テキーラはリュウゼツランを原料に作られる蒸留酒ですが、実際に展示された植物を見て、豆知識を知った上でお酒を飲む。ふだん植物に興味のない方でも、植物が生活の中の衣食住すべてに関わっていることを体験していただけたイベントになったと思います。(永田)

チャレンジガーデンが1年間取り組んできた軌跡を、1冊のリーフレットにまとめた。詳細はこちら

Q. 最後に、うめきた公園は2024年夏頃にオープンを迎えます。どのような存在になってほしいと思いますか。

A.
うめきた外庭SQUAREの閉園前、最後のイベントである「『みどり』のリビングラボEXPO」で、来園者の方から「水やりしていいですか?」と声をかけてもらえました。来園された方にチャレンジガーデンに対して自発的な行動を起こしてもらえるのは、まさにグラングリーン大阪が目指す、市民が主体的に関わり公園を一緒に育てるという「Osaka MIDORI LIFE」のめざす方向性を体現しているようで嬉しかったですね。新しく誕生するうめきた公園でも協同できる関係性が理想ですし、そのために市民や来園者の方とコミュニケーションができる公園にしていきたいと思います。(永田)

多くの方が公園に訪れることになると思いますが、それぞれの目的に合わせて多様な使い方ができる空間となることを期待しています。公園でリラックスしたい、草花を見てなごみたい、または何か刺激や活力を得て明日につながるような公園に育てていきたいです。(大西)

大阪のみならず日本を代表するみどりの空間になってほしいですね。私たちもみどりのコンシェルジュとして公園の素晴らしさ、街の良さをお伝えできるような存在になれるよう努力していきます。これまで1年間、利用者の皆さまとさまざまなコミュニケーションの仕掛けを行ってきましたが、新しく誕生する公園でもチャレンジガーデンで得た知見やノウハウを活かしていきたいです。(一箭)

株式会社日比谷アメニス
1872年創業。アメニティスケープクリエーション(快適空間の創造)という企業理念をもとに、公園・緑地等の施工から運営管理・メンテナンスまで幅広い事業でみどりのまちづくりを進める。代表プロジェクトにIKE・SUNPARKやGREEN SPRINGSなど。うめきた公園では管理・運営を担当予定。

写真:東谷幸一 文:脇本暁子

Back