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“かたち”だけでなく、持続的マネジメントが可能な“しくみ”もデザインする

忽那裕樹

“かたち”だけでなく、持続的マネジメントが可能な“しくみ”もデザインする

ランドスケープ・アーキテクトであり、まちづくりプロデューサーでもある株式会社E-DESIGN代表取締役の忽那裕樹さん。水都大阪フェスの「水と光のまちづくり」などリバーサイドや公園、広場、道路といったパブリックのデザインだけではなく、その空間の使いこなしの提案からしくみづくりまで市民と一緒に活動している忽那さんにこれからの公共空間のあり方を聞いた。

忽那裕樹さん/株式会社E-DESIGN代表取締役

Q.ランドスケープを学ぼうと思われたきっかけは何ですか?

A.今でこそいろいろな公共空間に関わっていますが、元々は公共や学校というものが苦手でした(笑)。なんとなく威圧的だなと感じていたんです。でも大学受験で進路を考えたときに、公共空間もデザインしてできるものだと知りました。すべて誰かが一生懸命考えた場だと思うと、街の風景が一変して見えたんです。そこで大阪府立大学で緑地計画工学を学ぶことにしました。

Q.卒業後は、鳳コンサルタント環境デザイン研究所に就職されて、その後にE-DESIGNを立ち上げられました。

A. 独立したきっかけは、阪神淡路大震災です。神戸の大日六丁目商店街は、震災によって70店舗中の約半数が閉店してしまいました。僕らは有志でその復興と活性化アイディアを商店街に提案していましたが、ある時、アーケードを架け替える提案が議論になりました。しかし、アーケードよりも先に、街のコミュニティ再生が急務だと思ったんです。そこで、コミュニケーションが生まれるイベントとして、小学生が発案した陶器市やグラスに火を灯した鎮魂イベントを開催しました。また、「一文字フラッグ」では住民に自分の街の良いところを一文字で表してくださいと募集して、それを旗にして商店街に掲げました。「あれは僕が考えた文字や」と子どもが親と見に来るなどして人が集まることで、商店街の人々にも誇らしい気持ちが生まれます。何よりアーケードの架け替えには5億円が必要でしたが、旗は1枚5万円で済むので、計55万円という低コストでの実施でした。

主体的に関わる市民を育ててコミュニティのハブになるような仕組みづくりを重ねて、半分以下だった営業店舗も7、8割程度にまで戻りました。その場をデザインする“かたち”と“しくみ”と使いこなす“うごき”を同時にやっていく。“かたち”ができてから市民に渡すのではなくて、その活動を支える下地として、まちづくりを含めたランドスケープが必要だと思い、独立を決めました。

神戸の大日六丁目商店街で最初に手がけたという「一文字フラッグ」。旗の文字は地元の子どもたちから募集した。

Q. こうした仕組みづくりが水都大阪フェスでも生かされたのですね。

A. 2001年の都市再生プロジェクト以来、大阪府と市が連携して水の都大阪再生構想という取り組みをしています。2009年に実施された「水都大阪フェス2009」は府・市・民間企業が協働して実施するシンボル的イベントで、僕は会場デザインなどを担当しました。アートと市民参加をテーマとしたフェスは大きな成果をおさめ、それをきっかけに2011年から2年間、コミュニティ・デザイナーの山崎亮さん、都市プランナーの泉英明さんとともにプロデューサーとして、フェスを継続実施することになりました。その際には、大阪中の約2,000団体に声をかけて、活動したい人と困っている人をマッチングさせたり、声がけした団体には活動をすべて同じ日に実施してもらうことで街全体が盛り上がるしくみをつくりました。2013年には「一般社団法人水都大阪パートナーズ」の担い手となり、水都大阪フェスの活動の支援や、水辺を取り巻く環境の活性化などを推進しました。その時の活動を通して、官民連携の中間支援組織こそが、まちづくりの根幹になると確信したんです。

大阪の水辺の楽しみ方を創出するために開催された水都大阪フェス。ステージや音楽ライブのほか、水都大阪の魅力を再発見できるクルーズ体験などを提供した。写真提供:水と光のまちづくり推進会議

Q.2017年に竣工された草津川跡地公園ではどういった点に注力されましたか?

A. 廃川となった草津川跡地を公園にするというものでしたが、最初から“かたち”と“しくみ”と“うごき”を意識して、市民を巻き込んでいくことに注力しました。「くさねっこ」という組織を有志で作り、ワークショップを通して市民の想いをデザインに反映していきました。しかし、出た意見を単純にかたちに落として並べても、いい空間はつくれません。僕は地形と樹木の密度と大地のテクスチャー、この3つの要素をうまく重ね合わせて多様な空間をデザインすることで、どんな活動も受けとめられる、誰もがやりたいことの見つかる公園空間を生み出せると考えています。そのため、イベント広場や小川が流れるフォレストガーデンなど、子どもも大人も自分なりに楽しむことができる公園をテーマにデザインしました。「くさねっこ」は公園の施工中にも活動していたので、公園が完成したときにはすでに市民活動が活発で、いまでも公園の管理や運営の一部を担ってくれています。

草津川跡地公園では旧草津川の流れを思い起こさせる親水空間せせらぎゾーンが整備され、子どもたちの遊び空間になっている。

Q.関西国際空港の対岸に位置する泉南りんくう公園(泉南ロングパーク)が2020年にオープンしました。

A. 長らく整備されなかった海岸沿いの用地を府が民間事業者に無償で貸し付けて、公園と商業施設が一体となった場所が、泉南ロングパークです。当社がデザインを担当させていただきましたが、ここでしか体感できない空間づくりを目指して、海にとても近いところにある店舗や公園、スポーツ施設それぞれの利用者がその環境を使いこなし、心地よく過ごせるように細かい点まで工夫を凝らしています。眺めの良い場所であることも加わって、開園して2年目ですが年間160万人が訪れる都市公園になりました。商業空間と行政とこの場で活動する市民が三位一体となって公共空間を支える、それこそが本当のパブリックだと思っています。

2020年7月にオープンした泉南りんくう公園(泉南ロングパーク)。アクティビティ・コミュニティ・マルシェ・グランピングの4つのエリアに分かれ、スポーツや食、レジャーをまるごと楽しめる。泉南マーブルビーチとタルイサザンビーチは「日本の夕陽百選」にも選定された。写真提供:大和リース株式会社

Q. 大阪の街はそうした公共空間としての可能性があるのでしょうか?

A. そういう土壌があると思います。公園の整備を行う民間の事業者を公募で選定する「Park-PFI」制度も、制定以前からすでに僕らがやってきたことでした。また、それまでは道路上でアルコール販売や広告の掲出、テラスや椅子の設置が道路法で規制されていましたが、2020年に歩行者利便増進道路制度(通称ほこみち)ができて、賑わいのある道路空間創出のために基準が緩和されました。御堂筋の公園化の社会実験などをずっと行ってきて、最初はアルコールの路上販売はカップ一杯までというところから一歩一歩取り組んできた結果です。

僕は、作り手の顔が見える公共空間にしていきたいと思っています。さらには、まちづくりのワークショップに子どもたちも一緒に参加してもらって、嬉々として楽しんでいる大人の姿を見せて、将来の自分像が見つかる場所であってほしい。そのためにはプロセスをすべて開示して、市民が行政に責任を持って関わっていかなければならないと感じます。

独立して22年目になる忽那さん。公共空間や道路活用の規制がこの20年で緩和され、ようやく理想としていたパブリックを実現化できるようになったという。

Q. うめきた2期に期待することは何でしょうか?

A. 大阪の駅前で、企業や地元住民やそこを訪れる人たち三位一体の仕組みで運営される象徴が、うめきた2期地区の真ん中にできる公園だと思います。僕が常々心がけているのは、人がいて初めて美しくなる風景をデザインすること。その風景を見た人が「自分もその風景の一つになりたい」と、そう思う人が増えることで街の魅力も増していくのです。人も含めた緑豊かな美しい風景をつくってほしいですし、うめきた2期が次の開発のモデルになることを期待しています。

忽那裕樹(くつな・ひろき)
1966年大阪府生まれ。ランドスケープ・アーキテクト、まちづくりプロデューサー。
公園、広場、道路、河川の景観・環境デザイン、およびその空間の使いこなし、さらには、その持続的マネジメント・しくみづくりを同時に企画・実施するという手法を駆使することによって、新しい公共を実現し、魅力的なパブリックスペースを創出することを目指し、数多くのプロジェクトを手掛けている。また、大学、病院、学校、商業、住宅のランドスケープデザインについては、広く国内外をフィールドに活動中。著書に「図解 パブリックスペースのつくり方」(編著)等。「水都大阪のまちづくり」日本都市計画学会石川賞受賞(2016年)、「草津川跡地公園(区間5)」第33回都市公園等コンクール 特定テーマ部門 国土交通大臣賞(2017年)等受賞多数。

写真:東谷幸一 文:脇本暁子

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