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Life with Green

いいパブリックスペースには新しい登場人物が生まれる

馬場正尊

いいパブリックスペースには新しい登場人物が生まれる

建築設計事務所「Open A」の代表かつ「東京R不動産」のディレクターであり、「公共R不動産」も運営する、建築家の馬場正尊さん。建築と社会との関わりを、独自の理論と空想を積み重ねて描きながら、面白い視点で綴った著書も多数出版。さまざまな社会実験を繰り返し、現代の公共空間のあり方について追求してきた人だ。「屋根のある公園」をコンセプトに、元倉庫をリノベートした実験的な空間のオフィスで話を聞いた。

Q. 馬場さんは、2013年に『RePUBLIC 公共空間のリノベーション』、その後2015年に『PUBLIC DESIGN 新しい公共空間のつくりかた』(ともに学芸出版社刊)を上梓されていますね。馬場さんが、パブリックスペースに注目したきっかけは何だったのですか。

A. パブリックスペースに関して記した最初の著書『RePUBLIC〜』は、公共空間の再生についてフォーカスした本でした。そしてその後の『PUBLIC DESIGN 〜』は、続編として「次は、新しい公共空間をつくらねば」という問題意識を持って書いた本です。最初の本を書くに至るまで、僕の中でとにかく、公共空間をうまく使えないというストレスがありました。日本の公共空間は、なぜこんなに不自由なんだ!と、いつも感じていました。そんな時に、ニューヨークのブライアントパークを訪れたら、その公園がものすごく楽しそうなわけです。ああ、日本の公園もこうなるべきだ!と思って、その後取材と妄想を繰り返して、世に出したんです。

いちばん最初に公共空間への興味を抱くきっかけになったのは、「池袋西口公園」です。小説の舞台にもなった、いわゆる“池袋ウエストゲートパーク”ですね。「フェスティバル/トーキョー」という舞台芸術イベントを行う東京都の団体から、1カ月だけ東京芸術劇場の前の公園に、演劇を楽しんだお客さんが楽しめるようなカフェなどの仮設建築をつくってほしいと依頼を受けました。

結果的にシンプルなドーム建築をつくるんですが(www.open-a.co.jp/portfolio/4516/)、そこに至るまでの紆余曲折の中の苦労がもう半端なくて。たったひとつの仮設建築をつくるのに、手続きや規制がすさまじく、これはもう手も足も出ないというほど、とてつもない不自由さを感じたんです。

当時「東京R不動産」を運営していた僕は、「よし、次にリノベーションすべきは、公共空間だ!」と、この時思って、各地に取材に行き始めたんですね。ニューヨークのブライアントパークもそのひとつで、ものすごくかっこよく使われている公園が海外にはあるわけです。公園内では、企業活動もどんどん行われています。日本で、楽しい公共空間をつくることがこんなに大変なら、日本の公共空間の未来はこのままではダメになると思ったわけです。

Q. そこから8年経ったいま、数多くの公共空間づくりに携わっていますが、馬場さんが問題意識を持って取り組んだからこそ、良い方向へと進んだというエピソードがあれば、教えてください。

A. 日本の公共空間は、ゆっくりだとは思うけれど、だいぶ良い方向に変わったという実感はあります。

僕の中に、従来の日本の公園は、「つまらない」という前提があったんです。小さな公園でも、その中に例えばカフェや花屋がポップアップでお店を開いたりしたらそれだけで楽しいじゃないか、と思いますよね。場所を提供できたら行政は賃料も取れてハッピーだし、カフェも利益を上げられてハッピーだし、遊ぶ子どもたちの見守り効果もあってハッピー。さらに、僕自身がそうだったけれど、それまで居場所のなかった子ども連れのお父さんも、カフェでコーヒーを飲みながら、読書や仕事をしながら子どもを遊ばせられるんです。だけど、日本の法律ではできない……と、僕が感じていたストレスを本に書きました。

本の発売後、ある役所の公園緑地課の方が、「馬場さんの本を読みました。めちゃくちゃ面白かったんですが、記述に間違いがあります」と、事務所にいらっしゃったことがありました。彼はこう言うんです。「日本の公園がつまらないと言われるのは、僕もいちばん嫌なんです。これは法律じゃなくて、自治体の条例が禁止しているんですよ。だから僕は自治体の条例を変えて、ちゃんと使える公園をつくるムーブメントを起こしたいんです」と、熱い想いを語ってくれたことがありました。

その彼が後に、「Park-PFI*」をはじめとする、いまある公園活用の法律をつくっていったんですね。いま彼とは同志のような関係で、忘れられないエピソードです。それは公共空間の法律が変わるきっかけでもあったし、その数年は、変化の連続だったと感じています。

「Under Construction」と名付けられたOpen Aの事務所は、大人でもわくわくするような仕掛けや飾りが施された空間。シェアオフィスでもある。
Open Aでは「THROWBACK」と題し、産業廃棄物を新しいアイデアで家具へとリプロダクトするプロジェクトが進行している。

Q. そんな手応えを感じながら、次第に理想的な公共空間づくりへと動かれていくわけですね。これまで手がけられた公園や公共事業で、心に残っている場所があれば教えてください。

A. 3つ挙げられますが、ひとつは「南池袋公園」。もうひとつが静岡県沼津市の「泊まれる公園 INN THE PARK」、そして3つ目は、佐賀県江北町の「みんなの公園」です。

南池袋公園は、もともと環境が良くなかった公園を、広い芝生に変え、カフェができて、日本を代表する公園に生まれ変わりました。南池袋公園と隣接するグリーン大通りの活用実験というプロポーザルがあって、地元に住む青木純さんから声がかかり、社会実験に参加したのが最初でした。「nest」という株式会社をつくり、グリーン大通りの歩道で社会実験をやったんです。徐々に来る人のキャラが変わったし、皆が本当に楽しそうに過ごしている。公園が改修されてたくさん人が来るようになると、まわりの環境も変わっていきました。街の中に、ひとついい公園ができることで、街そのもののイメージがこんなにも変わるんだということを目の当たりにしたプロジェクトです。ここでの試みは、公園から街を再生するという、池袋の都市政策にもつながっています。さらにnestでは、「IKEBUKURO LIVING LOOP」という、池袋の公園やストリートを区民のリビングにしようと、マルシェなどを展開するイベントも定期的に開催しています。

「南池袋公園」は、5年以上もの工事期間を経て2016年にリニューアルオープンした。カフェ「ラシーヌ ファーム トゥー パーク」は、公園のランドマーク的存在。(提供:nest)

次の「泊まれる公園 INN THE PARK」ですが、2015年に、「公共R不動産」というメディアを立ち上げました。「東京R不動産」の、いわゆる公共版で、日本の公共空間と民間とをマッチングさせるサイトです。ちょうどその立ち上げと同時期に、沼津市から相談があったのがきっかけです。遊休化した沼津市の少年自然の家の維持管理費が莫大な赤字になっているので、民間に経営を委ねたい。その情報を掲載してください、というものでした。

面白そうなので現地に行ってみたら、確かに、少年自然の家はボロボロ。でも、その前に広がる愛鷹運動公園が、素晴らしい環境だったんですよ。だから、この公園自体を活用できれば、廃墟になってしまった少年自然の家は生まれ変わると思って、建物と公園をセットにした活用をプレゼンしたのが「泊まれる公園 INN THE PARK」だったんです。公園に隣接する少年自然の家をホテルへとリノベーションしたり、公園の中に球体のテントを浮かべて点在させ、テントにも泊まれるようにしたり。常識では泊まってはいけない“公園”に、あえて泊まろう!と呼びかけることで、公園の新しい可能性を見いだしたものでもありました。

森の中に球体のテントが浮かぶ、「泊まれる公園 INN THE PARK」。非日常を味わうことのできるホテルとして、人気を呼んでいる。(撮影:阪野貴也)

3つめの「みんなの公園」は、僕の生まれ故郷である佐賀県に2019年にオープンした公園です。江北町という人口約8000人の田舎町にあるのですが、町長からは「南池袋公園みたいな公園にしたい」というリクエストを受けました。ショッピングモール裏の空き地に、カフェと市民があつまる集会所、トイレ、畑、そして子どもたちが登れるような傾斜と広い芝生をつくりました。ここがすごく人気になって、多くの人が遊びに来る場所になりました。これはいい意味での計算外ですが、公園でいちばん人気の時間が、芝生に散水する時間です。九州の暑い夕方に、スプリンクラーめがけて子どもたちが走ってくるんですね。その様子は本当に微笑ましいものでした。

ここは、厳密には「都市公園法」に基づく公園ではありません。ただ、その制約を外すことによって柔軟な運用が可能になっています。

いまでは、公園の近くに住みたいと、この地域自体の人気も出て、地域活動のシンボルにもなっているんです。池袋の公園にもいえたことだけれど、良い公共空間が与えるインパクトは、小さな街の方が大きいのかもしれないですね。

佐賀の公園をつくるとき、スケッチを見せながら、市民の人たちを集めてワークショップをしたのですが、「何が欲しいですか?」とは聞きませんでした。能動的に関わってほしかったので、「あなたはこの公園で何ができますか?」と問うたんです。プラン中に、その場所でいくつかのワークショップやイベントなどの実験をやったあとに、完成へと進めていきました。

佐賀県江北町の「みんなの公園」は、近隣住民が参加することで成長を続ける場所。週末には、芝生広場でマルシェやワークショップが開かれ、賑わっている。(提供:Open A)

Q. 公園や公共空間が、その土地の価値を変えていくという良い例ですね。

A. いい公共空間は、エリアの価値を上げてくれるだけでなく、新しい登場人物を生み出します。実はカフェをやりたかったんです、と手を挙げてくれる人、映画会や英語教室、ヨガや結婚式をしたいと提案してくれる人もいました。公園には、「関わりしろ」をつくるってことが大事だと思います。

Q. 馬場さんが社会実験を繰り返す中で、緑や自然がもたらす活力を感じられたことはありますか。

A. もちろん、緑はマジックですよ。緑には魔法のような効果があるのは間違いないですね。例えば、「南池袋公園」のフサフサな芝生、あれはあの種類の芝だから、多くの大人がごろごろ寝転んで、リビングのような使われ方をしている。その芝生は単価も高いし、管理費もかかるから維持が大変なのだけど、人を集める価値は十分にある。

もうひとつ、今年池袋にオープンした「イケ・サンパーク」は、敷地面積がとても広いから葉が短めのワイルドな芝なんです。あまり人が寝転んでいないんですが、その代わり子どもたちが全力で走ってる(笑)。ペットもOKだし、ラフな使われ方が、それはそれで人気を呼んでいるんです。そのふたつを見ていて、芝生の質感だけで、集まる客層が変わって、公園の使われ方まで違うんだなという、面白い発見ができました。

東池袋の「イケ・サンパーク」。カフェや仮設店舗も続々登場し、公園から生まれる楽しい都市のカタチを生み出している。(提供:としまみどりの防災公園 管理事務所)

Q. 公共に配する緑から、新しい価値が生まれる、ということでしょうか。

A. 都市を自然化したいと思うのは人間の本能のように思います。僕らはそれに素直に従って、緑のある風景を夢想しているような気がしています。公園や緑に傾倒していくのも、僕らの居場所とか都市のデザインが、その欲望の真っ只中にあるからなんだと、そういう気がしています。

緑にまつわる興味深い事例で、神戸R不動産のメンバーが、神戸市の東遊園地という公園で毎週土曜日の朝、「EAT LOCAL KOBE」という素敵なマルシェをやっているのですが、その活動を始める時に、アメリカのポートランドで、地元に定着したマルシェの仕掛け人に教えを請いに行ったんです。その時に言われたことが、「大きな木の下でやる」ということ。その話を聞いた時、本質的な何かを言っているような気がして仕方なくて。「大きな木の下」に、人は集まり、拠り所としたくなるという、生物としての本能があるんじゃないかって思ったんです。彼はその教えを忠実に守って、大きな木のある公園の、大きな木の下でマルシェをやったら本当にうまくいった。現場でやっている人の声は、すごく説得力があるなと感じましたね。

Q. パブリックスペースに、皆がプライベートを求めていくというのも、面白い点でもありますね。

A. そうなんですよね。いちばんハッピーな公共空間の風景って、訪れる人が、そこを自分の居場所だと思えることかなって思います。パブリックな空間の中に小さなプライベート空間をつくって、自分のものだと思える場所がたくさんあること。そしてそう思っている人たちがたくさんいるってことが、いい公共空間のあり方なんじゃないかなと感じますね。

まるで細胞のように、大きなパブリックの中に小さなプライベートがパラパラと密になりすぎずに散っているイメージです。その距離感とか、風景とかが、コロナで混乱した時代の、その先の理想の風景と重なりました。

Q. 未来の公園・公共空間づくりにおいて、気になっているイノベーションやテクノロジーの活用方法は何かありますか。

A. 次の時代の都市の理想は、テクノロジーとエコロジーがちゃんとつながって、バランスを取っている風景なのではないかって思うことはよくあります。少し前までは、産業技術と環境って、対立概念みたいに捉えられていましたよね。環境派の人たちは産業化を嫌うし、逆に環境配慮が求められすぎると産業は発達しないというように、対立の構図になりがちだったんです。でも次の時代では、それを乗り越えて、テクノロジーとエコロジーが直結している状況を模索するような気がしています。

人間は次の100年で、街や都市を再び自然に戻そう、自然でいっぱいにしようという欲望にかられるのではないかな。「東京R不動産」でも人気の物件といえば、例えば、ベランダが広くて緑がもさっとあるようなところなんですよ。一人ひとりの個人は、もうその未来の風景に気がついていて、場を用意する側がそれをつくり始める時期に突入しているんだと感じています。

だからといって、ふたたび不便な自然には戻りたくないし、戻れない。頭に浮かぶのは、人間が緑をコントロールしつつ、穏やかな自然の中にちらっとテクノロジーが垣間見えるような風景です。小さくて主張のないテクノロジーが、離散的、分散的にあるような。例えば、光の調整、空調の調整、室温管理など、見えないセンシング技術が発達したり、空間をより安全にしてくれたり。控えめというより、ほとんど見えないテクノロジーが、都市のいろんなところで活躍している風景が未来である、という気がしていますね。

馬場正尊(ばば・まさたか)
Open A代表、建築家、公共R不動産ディレクター、東北芸術工科大学教授。1968年生まれ。早稲田大学大学院建築学科修了後、博報堂入社。雑誌『A』の編集長を経て、2003年Open A を設立。建築設計、都市計画、執筆などに幅広く携わり、ウェブサイト「東京R不動産」、「公共R不動産」を共同運営する。近著に『テンポラリーアーキテクチャー』(学芸出版社刊・共著)がある。

*Park-PFI:飲食店、売店等の公園利用者の利便の向上に資する公募対象公園施設の設置と、当該施設から生ずる収益を活用してその周辺の園路、広場等の一般の公園利用者が利用できる特定公園施設の整備・改修等を一体的に行う者を、公募により選定する制度であり、都市公園に民間の優良な投資を誘導し、公園管理者の財政負担を軽減しつつ、都市公園の質の向上、公園利用者の利便の向上を図る新たな整備・管理手法である。(国土交通省 都市局 公園緑地・景観課「都市公園の質の向上に向けたPark-PFI活用ガイドライン」より引用)

写真:米田志津美 文:須賀美季

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